新月の庭荘

 

その六

 

サスケに通され、リビングのソファにテンゾウが座っている。

久しぶりに会う愛しい人が目の前にいる。カカシは、無事に帰還したテンゾウを

いつものように思い切り抱きしめ、キスをして出迎えたかった。

だが、それはもう、叶わぬ事となる。

打ち砕かれた心を押し隠し、テンゾウとテーブルを挟んで反対側のソファに座る。

サスケは壁にもたれて立ち、カカシとテンゾウを見ていた。

 

「先輩、これは一体どういう事なんですか?」

サスケの家に呼び出された事が不審で、テンゾウが険しい顔をして聞く。

長く話せば、取り繕う事が困難になる。カカシはいきなり切り出した。

「実は別れて欲しいのよ。俺、サスケと付き合い始めたから。」

カカシの言葉が理解を超えており、テンゾウはしばらく言葉が出ない。

 

「・・・は?何言ってるんですか?ふざけるにも程がある・・・。」

「ふざけてなんかないよ。」

 

カカシはまるで、天気の話しをするかのように軽く言った。

「サスケが俺の事好きだって言ってくれてさ。

俺もかっこいい男に成長したなあって思ってたから、

この前サスケの家に泊まった時、抱かれたんだよね。

そしたらさ、すごく良かった。

やっぱ、若いっていいねえ。色々刺激を与えてくれる。」

 

「どうしたんですか?先輩?自分で何言ってるか分かってるんですか?先輩!」

「テンゾウ、俺はどうもしないよ。サスケを好きになっただけ。」

「先輩!いいかげんにして下さい!」

テンゾウが立ち上がり、テーブルを越しにカカシの腕を掴む。

すぐさまサスケが近づき、テンゾウの腕をカカシから振り払った。

「今、聞いたとおりだ。話しは終わりだ。帰ってくれ。」

 

 

カカシはサスケに抱きついた。テンゾウには、サスケに甘えていると見えるように、

本当は、今にも泣きそうな顔をテンゾウに見られないようにする為に。

サスケは抱きついてきたカカシを抱きしめ返す。髪に手をやり、優しく撫でた。

 

 

「先輩!こっちを向いて下さい!!」

テンゾウが叫んでも、カカシはサスケから離れなかった。

離れられなかった。今テンゾウの顔を見れば、テンゾウに縋りついてしまう。

だから振り返らず、サスケに抱かれたまま言う。

「テンゾウの事、嫌いになったんじゃない。

ただ、サスケの事の方がもっと好きになっただけ。」

 

嫌いになったんじゃない、という言葉に万感の思いを込めて

カカシはテンゾウに伝えた。

本当は今でも、そしてこれからもずっと愛してる。

でもその言葉が言えない今、せめてもの思いを込めて、

嫌いになったんじゃない、という言葉を紡いだ。

 

 

カカシの隠された思いを込めた言葉は、テンゾウの心を通過していく。

ただ、サスケの方を好きになったという言葉だけが、テンゾウの耳に残り、

打ちひしがれた心を抱えてテンゾウが出て行く。

全神経を背中に集中させ、カカシはテンゾウが出て行く気配を感じていた。

玄関の音が閉まった時、身体から力が抜け、サスケの腕を離れてソファに座り込んだ。

サスケは、ソファに座り込んだカカシを、何も言わず抱きしめる。

カカシはサスケに抱きしめられたまま、しばらく放心していた。

 

 

その夜、カカシがシャワーに入っている時、忍として優れた聴力を持つサスケは

流れるシャワーに混じる、ある音を拾った。

カカシが泣いている・・・・・。

流れる涙を湯で流し、堪えようとして堪えきれぬ慟哭を、

シャワー音でかき消し、カカシが泣いている。

 

普通なら気づかぬわずかな泣き声が、サスケには聞こえてしまう。

耳を塞ぎたくなる様な、愛する人の慟哭。

テンゾウの名を自分の前で呼ぶなと禁止したから、

シャワールームで、それも声を押し殺して泣いているのだろう。

カカシの嘆きは自分がもたらしたものということが、

いっそうサスケの胸を締め付けたが、やっと自分の元に来たカカシを

絶対に手放したくないという思いが、サスケを支配する。

 

 

サスケは自分もシャワーを浴びた後、寝室に向かう。

ベッドにいる、カカシに話しかける。

「この前は、乱暴にして悪かった。もう、あんなことはしないから。」

カカシは黙ったまま、サスケを受け入れた。

もう、テンゾウとは別れたのだから、サスケの家に来たのだから、

サスケを拒む理由などなかった。それに、テンゾウと別れたこの日に、

カカシは全てが終わっていた。もう自分の身体などどうでもいい。

サスケに何をされようと、どうでもよかった。

 

サスケは、出来うる限りに優しくカカシを抱いた。

やはり、カカシは中々身体の硬さが取れない。

想い続けたカカシを前に、若いサスケは気持ちがすぐに高まる。

何度も息を吐き、気持ちを静めて、カカシの身体の準備を丁寧に行う。

前をすきながら、指を後腔に入れる。それまでの愛撫も効果なく、

身体の硬さが取れないカカシだったが、指がある場所を掠めると、

ビクッと反応した。サスケはその反応があった場所への刺激を繰り返す。

 

「あ、ああっ・・・。」

それまで、声を耐えていたカカシが喘ぎ始める。

サスケは、自身もう限界に達していたが、それでも指をさらに増やして

カカシが辛くならないよう、充分に秘部を解かした。

 

「いいか?」

カカシが頷くのを見て、サスケは指を抜き、進入していく。

鞭で傷だらけにしたあげく、乱暴に抱いた前回と違って、

カカシの反応を見ながら、ゆっくりと奥まで進んでいく。

「あ、や・・・。ああ、あ、あ・・・。」

奥まで行きついたサスケが動き始めると、カカシの声がさらに高まっていく。

サスケは、すぐに達してしまいそうな気持ちを抑えて、

カカシの入り口近くまでの抜き差しを繰り返した。

そのたび、カカシが声をあげ身体を仰け反らせる。

 

段々に、快感に正直になっていくカカシの身体。

その、白い肌を手に入れることが出来た喜びを感じながら、

それでいて、脅迫の上に成り立っているこの関係の脆さに

心のどこかでおののきながら、その不安をかき消すように

カカシを抱いた。

戻る 続く