その四
ベッドで自分に背を向けて、横たわるカカシをサスケは見つめていた。
サスケは、自分がいかに罪重いことをしているか、充分自覚している。
里に戻るとカカシには恋人がいた。ヤマトとの関係を知って、諦めようと努力した時もある。
しかし、いっそう募る想いは変わらない。むしろ湧き起こるどす黒い感情。
カカシを手に入れたい、どんな手を使っても・・・・・。
今日は、何があってもカカシを抱くと決めていた。
彼の気持ちを考えれば、そんな酷い事は出来ない。だからこそ、考えなかった。
カカシの気持ちを無視して、彼の言葉に耳を傾けず、ただ実行すると決めていた。
後ろめたさを自覚していたからこそ、カカシが『テンゾウ』と、その恋人の名を
呼んだだけで、気持ちが制御できなくなり、鞭打った。
初めてこの手に抱いたカカシは、その強さに憧れた7年前と変わりない端正な顔立ちと
白い肌をしていた。大きく思えた身体は華奢で、いつの間にか、
サスケより小さい。いや、自分が大きくなったのだと、
頭では判っていても、不思議な気がして、それでいて愛しさが増す。
カカシのやや低体温の身体の表面とは違う、中の熱さ、そして啼くような声。
その声を出させているのが自分だというのが、嘘のようなひと時・・・。
抱いて、なおいっそう気持ちは強くなる。絶対に離さない。
翌日、テンゾウは、夕食だけと言って出て行ったきり、結局朝になっても帰ってこない
カカシに、妙な不安感を覚えていた。
普通に考えれば、里の中でも最高位上忍のカカシが、教え子のところへ
食事を食べに行ったからとて、何も心配する事はない。
おそらく、酒をご馳走になり、そのまま寝てしまったくらいの事だと思う。
それでも、テンゾウは何かしら、胸騒ぎがしていた。それは、自分が
今日から、長期任務になっているからだ。命の保障のない忍だからこそ、
カカシと自分はお互い任務で外へ行く時は、短時間でも顔を見せて、
その無事を祈ってキスをした。もしもの事があり、無事に里に帰還できない時、
里での最後の思い出が、恋人との思い出になるように、
必ず、キスをして、そうして相手の無事を祈ってきた。
テンゾウの出発時間が迫っている。やはり、おかしい・・・。この里内にいるのに、
3週間ほどの長期任務になると知らせたのに、カカシが顔を見せないなんて、
帰ってこないなんて、おかしい。
うちはの家に、寄ってから行こうか・・・、とテンゾウが思っていたら、伝鳥が来た。
それは、カカシからで、サスケの家で酒を飲みすぎたから、酔いを醒まして帰る
というものだった。任務気をつけて、とも書いてあったが、テンゾウは憮然とする。
そんな事だろうと、思ってはいたが、やはり、会えないことに苛立ちを覚える。
苛立ちと、伝鳥が来てその理由が判った今でも、何故か、一抹の不安をかかえて、
テンゾウは暗部分隊長として、長期遠征に出発した。
カカシは、眠ったのかどうか判らないような、うつらうつらとしたまま、
朝を迎えた。起き上がったが、身体がフワフワしていて、うまくバランスが取れない。
身体中、あちこち痛かった。
とにかく帰ろうと思い、倒れそうになるのを周囲のものに捕まりながら、
自分が着てきた服を探すため、部屋を出た。今はサスケが着せたパジャマを着ている。
リビングには、サスケがいた。
「大丈夫か?」
サスケの問いには答えず、カカシが言った。
「帰るから、服を出せ。」
「無理するな。顔が赤い、おそらく熱がある。第一、その腕で帰ったら、まずいだろ。」
言われて、カカシは自分の腕を見た。手首に、いかにも縄で括られていた跡が、くっきり残って、
一部はみみず腫れとなっていた。
カカシはその場にへたり込んでしまった。確かに、これは見せられない。
テンゾウは今日から、長期任務に行くのに・・・。身体の方も、自分の家まで果たして帰りつけるのか、
というほど弱っていた。フワフワ感は、熱のせいか・・・。
サスケに抱えられるようにソファに座り、結局、テンゾウには伝鳥を飛ばした。
「カカシは今日、休みだろ。」
テンゾウと、サスケは、それぞれ暗部分隊長だが、カカシは正規部隊にいる。
最近は、将来の幹部、あるいは火影候補にでもなっているのか、あまり、長期に渡る様な
複雑な任務につくことを、里の方が制限していた。
「身体が熱いカカシ、熱が相当高い。下がるまでここで暮らせ。」
「熱出たのは、誰のせいだ・・・。」
「俺のせいだな、分かっている。カカシ・・・、俺が憎いか?」
サスケは、ソファでカカシの身体を支えたまま、言った。
「昨日、お前に選択権は二つと言ったが、もう一つあるな。お前が、俺を殺すって言う方法だ。」
カカシはサスケを見る。
「ヤマトが俺を殺しに来るなら、俺は全力で戦う。でもカカシになら、殺されてもいい。どうする?」
カカシは、心身ともに疲れ果てて、かすれる声で言った。
「お前は、昨日から酷い事ばかり言う・・・。どうして俺にお前達の命の選択をさせるんだ・・・。
そんなこと・・・、出来るわけがないだろう・・・。」
辛すぎるカカシの嘆きを無視して、サスケは、更にカカシを追い詰める言葉を言った。
「お前が俺を殺さないなら、残る選択権は二つだ。ヤマトが任務に出ている間に、この、
うちはに引っ越して来い。一緒に暮らそう。来なければ、ヤマトが、里に帰還したその時が、あいつの死ぬ時になる。」
カカシは、サスケの言葉をそれ以上聞きたくなくて、両耳を手で押さえ、ソファに倒れこんだ。