過ぎゆく時に佇む
<7>
『あほか。どんな顔して入ればいいんだ。ほっといて
くれ』
『こんなところに居座られて、ほっとけるわけないで
しょ』
『お前が任務に出なければいい。少し休んで、体力戻
して元気になれば・・・』
『優しいな、アスマは』
『だから!俺はお前に惚れてるんだ。さっき分かった
だろう。これ以上恥をかかせるな・・・』
廊下に座り込んだままのアスマが顔を足元に落とす。
カカシはアスマの手を掴んで、引き起こそうとした。
『ほら、入れよ。そんな所に座り込んでたら冷えるだ
ろ』
自分の腕を掴んでいるカカシにアスマは見上げた。
『今部屋に戻ったら、襲うぞ』
冗談を含まない真剣な眼差し。カカシは一瞬黙りこ
み、そして答えた。
『・・・いいよ』
アスマはカカシの顔を凝視した。
『何言ってる・・・。そんな冗談よせ』
『冗談じゃない。お前の事は好きだ。でも、それが恋
愛感情かと聞かれたら・・・たぶん違う。それでお前
がいいなら・・・』
『恋愛感情に発展する可能性は、お前の写輪眼で判ら
ないのか?』
カカシがふふっと笑った。
『そんな事、判るわけないだろ』
アスマは立ち上がった、
『判らないという事は、0%でもないな。可能性はある
って事だ』
アスマはカカシを見つめ、そして二人はカカシの部
屋に戻る。そのまま無言でベッドまで二人は近づく。
アスマはカカシに口づけ、そしてそのままの勢いで
二人はベッドの端に腰かけ、口づけを交わしながら、
もどかしいように衣服を脱ぎ去る。
互いに上半身が裸身になると、アスマはカカシを押
し倒しそして下着も取り去った。若さとカカシへの想
いに圧倒的な勢いで愛撫を施すアスマ。
余裕がなく乱暴にも近いアスマの唇を、忙しなく自
分の肌を弄るその手を感じながら、カカシは亡き人を
想う。包み込むように、カカシをまるでガラス細工の
ように、丁寧に抱いた大人のあの人を。
『痛っ・・・』
アスマがカカシの秘部に早急に指を捻じ込んできた。
『あ・・・ごめん・・・』
アスマは戸惑いの表情でカカシを見下ろす。
『そのままじゃ・・・女じゃないから濡れない・・・・』
『あ、ああ・・・ごめん、俺、男は初めてで・・・』
カカシは黙ってベッドサイドの小瓶をアスマに渡す。
アスマはそれを受け取り、中のジェルを自分の指と
カカシの秘部に塗り込め、溶かす行為を繰り返す。
『大丈夫か?』
性急さを潜め、カカシを気遣うアスマ。
『もう大丈夫・・・』
カカシの言葉に安心したように、再び激しさを増す
アスマ。指で押し広げられ、溶かされた部分にアスマ
のものが入ってくる。
『ああ・・・、アスマ・・・・』
『カカシ・・・、好きだ、カカシ・・・』
カカシへの深い想いがほとばしり、アスマは激しく
突き上げる。十代の二人は互いに獣となり、いつ果て
るともなく睦みあう。
何度目かの精を放ち、二人は放心したようにしばし
ベッドの上にいた。
やがてアスマはむくっと起き上がり、ベッドサイド
に腰かける。
目線を下にすると床にさっきカカシから渡された小
瓶が転がっているのが見える。夢中で絡み合っていた
ので、落ちた事に気づいていなかった。アスマはそれ
を拾い上げ、小瓶を見つめながら静かにカカシに問う。
『最初の相手は、四代目か?』
男からの愛撫に慣れている、カカシの身体。
『・・・・・』
カカシは返事をしない。
『やっぱりそうか・・・』
アスマは小瓶をベッドサイドのボードに戻す。
『でも、お前四代目がいる頃はまだ14だろ・・・』
ふと湧いた疑問がそのまま口に出る。結婚した後な
のか、その前なのかなどという以前に、大人と子供。
モラルを逸脱している。
『・・・俺がいいって言った。先生は悩みに悩んで・・・』
アスマはカカシを振り返った。
『里を救った四代目の偉大さは、充分に判ってる。で
も・・・』
それは許されることなのか?という言葉は呑み込む。
『先生を悪く言うなら、もう帰れ』
『悪く言うつもりはないよ・・・』
聡明な四代目は、カカシの言う通り、悩みに悩んだ
のだろう。それでも、カカシを諦めきれなかった。
同性を好きになった時点で、モラルを逸脱している
事に変わりはないと、アスマは思う。
『にしても四代目が相手なら、俺の分が悪すぎる』
アスマが呟く。人間が色々な事を忘れていくのは防
衛反応の一つだ。
嫌な記憶をいつまでも引きずっていかなければなら
ないとしたら、生きるのは辛すぎるから。だから想い
出はいつも霞がかかり、美しい。
記憶の中にしか想う事が出来ない人がライバルなら、
それは分が悪すぎる。
『ま、ライバルがかなりの大物でも諦める気はないけ
どな』
陽気なアスマの声にカカシは振り返る。
『アスマ・・・』
『さっき言っただろう。可能性が0になるまでは、諦
めない』
アスマはカカシに近付き、その頭をポンポンと抑え
た。
『今日はもうさすがに大人しくしてるだろう。俺は帰
る』
アスマは身支度を整え部屋を出る。振り返った時も
う一度カカシに声をかけた。クマの様な大きな図体に
似合わぬ優しい表情を浮かべて。
『また来る』
そうして、アスマは実際それから何度もカカシの元
を訪れた。里の未来を憂え、身近な話題に笑いあい、
時に深刻に語り、そして何度も何度も身体を繋げあっ
た。ミナトとは全く違う、十代のその性の激しさむき
出しに、互い貪りあうように・・・。
「カカシさん、検温の時間です」
看護忍から声をかけられ、カカシは記憶の旅路から
戻る。言われるままに体温計を脇に挟み、カカシはベ
ッドに横になる。
優しいアスマに結局カカシは心を預け切ることが出
来なかった。偉大な三代目火影である父との確執、里
の古参達からの重圧、そして前を見ぬカカシとの関係
に、アスマは疲れを見せ始めた。
『いい加減にしろよ』
『何が?』
『俺を見ろよ』
『見てるだろう』
『俺が言ってるのは・・・・』
繰り返す小さな言い争い。
『もうやめてくれ、アスマ・・・』
『俺を見ろ!カカシ!死んだ奴じゃなく、俺を!』
『ああっ・・・アスマ・・・もう・・・やめ・・・あ
うっ・・・』
いつもとは明らかに違う、激しい暴力じみたセック
スをカカシに強いた日。
アスマはカカシに告げた。
『里を出る。火の国へ行き、守護十二士となる』
『アスマ・・・』
『乱暴にして悪かったな・・・大丈夫か?』
乱暴な愛撫の痕が身体に残るカカシを、アスマは今
度は優しく抱き寄せた。
アスマを止める権利はカカシにはもちろんない。ア
スマの想いを受け止めきれなかったのは、カカシの方
だったから。
「戻って来た時には、あの髭面になってたなあ・・・」
ベッドの上でカカシは呟いた。
紅の気持ちに気づいたのは、そのころだ。