過ぎゆく時に佇む
<2>
「また残してるね。そんなだから体力つかないん
だよ。ちゃんと食べないと、またガイに背負われ
て入院する羽目になるよ。」
昼食を下膳に来たベテランの看護忍に言われる。
木の葉病院への入院も初めてではないカカシは、
以前からいる看護忍達とすっかり顔なじみになっ
ている。
顔なじみとは言え、年代で言えばカカシの母親
ぐらいのこの看護忍は辛辣だ。ここ最近の一番思
い出したくない事をストレートに指摘される。
「俺が無いのは体力じゃなくてチャクラですけ
ど・・・」
子供みたいに反論してみる。途端に背中をポン
と叩かれた。
「屁理屈言ってないでさっさと全部食べなさい。
後でもう一回来るから」
お茶を継ぎ足し、抱布の足元の解れた紐を結び
なおし、ベッド際の床頭台の上をささっと片付け
彼女は出ていく。
きつい事を言いながらもそれは食が細いカカ
シへの叱咤であり、口調とは裏腹に細かい配慮を
忘れないベテランの看護忍であるから、カカシも
取り繕った態度をしなくて済む。
「ご飯をちゃんと食べなさい・・・か・・・」
後でまた来ると言った看護忍に怒られない様、
カカシは再び箸を手にする。
小さい頃は父親に、そして彼を失ってからは先
生に言われた言葉だ。
『カカシは線が細いからね、もうちょっと食べな
きゃ』
『技に必要なのはチャクラだけど、身体づくりは
基本だからね』
ミナトはそう言いながら、カカシの肩を軽くポ
ンポンと叩く。
大人が自分より幼い者を気遣う言葉、自分と先
生との出会いは確かに先生と教え子という関係だ
った。
黄色い閃光と言われたミナトの強さには、誰
しもが一目を置く。
カカシに取って憧れ尊敬し手本とする忍びが
目の前にいるということは、それだけで気持ちを
前に向けることが出来た。
里の人々からの中傷に耐えきれずに父が自死
した以降も、それでもなお木の葉の里への帰依の
気持ちを保てたのは、ミナトの存在があったから
だ。
里にいる間の束の間の休息の時、太陽の様な輝
く髪と青空の様な蒼い瞳で、自分を見つめて心配
してくれるミナトに、尊敬や憧れとは違う感情が
芽生えてきた事に気づいた。
その感情は本来異性に向けるべきものだとい
う事も・・・。
気づいてなお、ミナトに対しての想いが募る自
分の心に驚き畏れ戦いた。
そしてミナトからの優しい視線の中に感じ取っ
た、自分への特別な感情・・・。導き、導かれる
者というミナトとの関係がいつからか、どこかで
違っていった・・・。
カカシは箸を動かす手が止まってしまった事に
気づく。
「また怒られる・・・」
苦笑して、残りの碗に手をつける。入院なんて
本来は非日常の事だ。しかし自分にとっては看護
忍と親しくなるほど日常になりつつある。
友から貰った写輪眼にチャクラが追いつかない
のはしようがない。自分はうちは一族ではない。
しかしやはり豊富なチャクラ量には憧れを持つ。
そう、ナルトのように・・・。
豊富なチャクラ量・・・。
そうだ、新技のヒントになる気がする。豊富な
チャクラ量・・・。
豊富なチャクラを持っているナルトだから為
せる事。
カカシは三度手を止め、ナルトの新技に思考を
巡らせる。その時扉が開いて、ほとんど手をつけ
ていないカカシの御膳をちらと見た看護忍と目が
合う。
「あ・・・」
結局手つかずの御膳。カカシはまた子供のよう
に叱られるのを覚悟した。