フロアタイル 過ぎゆく時に佇む

奥の間

 

 

過ぎゆく時に佇む

 

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「先輩。ただいま戻りました」

 

来週あたりには退院できるとの許可をもらい、

今回の入院は長引いたと窓辺に佇みながらカカシ

が考えていると、今回のミッションで教え子達を

託した信頼すべき後輩が窓から姿を現す。

 

「ごくろうさんだったな」

 

「お加減はいかがですか?出発前は余りに時間が

なくて、挨拶しか出来ませんでしたが」

 

「ああ、大丈夫。来週には退院できる」

 

「そうですか。昔から変わりませんね。無茶する

ところ」

 

「お前にはそれでよく叱られたな」

 

「あなたは雰囲気も変わりませんね。年取らない

忍術でも開発しましたか?」

 

「あはは・・・何言ってるの。大蛇丸じゃあるま

いし」

 

「あの蛇は他人の身体を乗っ取ってるだけでしょ

う。あなたはあなたのまま変わらない」

 

 テンゾウがその琥珀の瞳でじっとカカシを見つ

める。

 

 カカシが口を開こうとした時、テンゾウは被せ

る様に言葉を続けた。

 

「とにかく口頭で報告しますね。文書でも整理し

ますが、まずは、うちはの彼に会いました」

 

「サスケ?」

 

「ええ、ただナルトやサクラの顔を見ても表情も

変えることなく・・・彼は本当に木の葉に戻る意

志が無いようです」

 

「そうか・・・。まあ、詳しく聞こう」

 

 カカシはベッド傍らの椅子を指さし、テンゾウ

は微かに頷き座った。

 

 一通り、今回の任務の話を聞き終えると、今度

はカカシがテンゾウに向かって頼みごとがあると

話しを切りだした。

 

「テ・・・じゃないヤマト。前から考えていた新

術開発に協力をしてもらいたい」

 

「新術ですか」

 

「ああ、といっても俺が使うわけじゃない。ナル

トだ」

 

「ナルト?」

 

「そうナルトだ。だから木遁使いのお前の協力が

いる。九尾が暴走すれば俺だけでは止められない」

 

「九尾が表出するような、過酷な修行になりそう

なんですか?」

 

「入院中に修行方法を考えていた。過酷には違い

ないが、ナルトなら充分ついて来られると思う」

 

 ヤマトは真剣な表情で聞いていた。カカシは昔

から生真面目なヤマトをちらりと見て、にっこり

と笑いかける。

 

「ま、ナルトはもちろん大変だが、ある意味お前

が一番大変かもな」

 

「ちょ・・・ちょっと先輩。それどういう意味で

すか?」

 

「まあまあ、そんな心配しないでもいいよ。優秀

なお前なら特に問題はないさ」

 

「ちょっと待ってください。今回のミッションも

大概大変で・・・」

 

「いやー、持つべきは優秀な後輩だな」

 

 カカシはテンゾウの言葉を軽く聞き流し、にっ

こりとしたままテンゾウの肩に手を置きポンポン

と叩いた。

 

 カカシの手を肩に感じながら、テンゾウはため

息をつく。

 

「恋人は無理でも、優秀な後輩のポジションは確

保しておきたいですもんね」

 

「テンゾウ・・・」

 

 カカシが顔を上げ、テンゾウの肩に置いた手を

引く。

 

テンゾウは引こうとするその手をそっと押さ

えた。

 

「・・・僕が今もあなたを想っていると言ったら

どうしますか?」

 

「・・・だって、お前からは連絡一つしてこなか

っただろう・・・」

 

「そりゃ、あんな酷いこと言われたら、諦めなき

ゃって思いますよ。でもね」

 

 困った表情のカカシを見つめて、ふいにテンゾ

ウが満面の笑顔を見せて押さえた手を外す。

 

「あはは・・・。クールで有名なあなたにそんな

露骨に困った顔させたなんて、今日はいい気分だ。

冗談に決まってるじゃないですか。僕はね、これ

でも色恋に不自由しない程度にはモテるんですよ」

 

自慢げに笑う後輩をカカシは見つめた。

 

そうだろう。この若くて優秀な忍びが、いつま

でも自分を想っているはずがない。

 

かつて暗部時代に身体を重ねたことはあるけ

れど・・・。そして暗部を離れる時にもう終わり

だと一方的に告げたけれど・・・。

どうせ、お互い男も経験しておこうって程度の

好奇心だったよな、お前もそうだろうと言い切っ

て、立ちすくむテンゾウを置いて去ったこんな酷

い男の事なんて。

 

 

 

 ヤマトがカカシの病室から退席してから後、今

度はナルト、サクラ、そしてサイが病室を訪ねて

くる。ナルトとサイは互いに頬が赤かった。

ケンカでもしたのかと思う。この3人をまとめ

るのは大変だったろうなあと、テンゾウに同情する。

根の少年もまた、一筋縄ではいかない存在のようだ。

 

「先生・・・。私達・・・」

 

 サクラが改まった表情で失敗に終わったサスケ

奪還についての報告を始めるのをカカシは遮る。

 

「ヤマトから聞いているよ」

 

 サスケの強さが想像を超えているという3人か

らの報告を受け、カカシは答えた。

 

「だったら、こっちはもっと強くなるしかないで

しょ」

 

 カカシは新術の修業に入る事をナルトに告げる。

 

「これでお前はある意味俺を超えるかもしれない」

 

「カカシ先生を超える・・・?」

 

 カカシの言葉を受け、ナルトが呟く。

 

 金色の髪、青い瞳、かの人の遺伝子を引き継ぐ

ナルトならば早晩、自分を超えるだろうとカカシ

は心から思う。

 

 

「ちょっとアスマ先生。ノックくらいしなさいよ」

 

ナルトがもっと修行について詳しく聞きたが

った時、アスマ達10班のメンバーがどやどやと

病室になだれ込んできた。やや重かった空気が途

端に賑やかになる。

 

 今から焼肉を食べに行くからと、アスマが新生

7班も誘った。

 

カカシは修行についてはまた今度と、ナルトに

告げる。サイとの微妙な関係をみる限り、この子

たちは互いに親睦を深めた方がいいと思う。

 

自ら誘っておきながらアスマはカカシに話し

があるといい、病室に残った。子供たちが出て行

 

くと、とたんに静寂が訪れる。

 

 カカシのベッドの端にアスマが腰掛ける。

 

「どうだ体調は?」

 

「もういいよ。来週には退院できるってさ」

 

「そうか。ならいいが・・・。お前はあい変わら

ず無茶するからな」

 

 アスマが手を伸ばし、カカシの閉じている左目

に触れた。

 

「瞳術は・・・かなり負担なんだろう?」

 

 アスマはカカシの瞼をそっと撫でるように指を

這わせる。

 

「まあね、でも加減はしてるよ」

 

「どうだかな。いざとなると自分の事は後回しだ

からなお前は」

 

 アスマはカカシの左目に触れていた右手で、今

度は頬を覆う。

カカシは自分に触れているアスマの手を掴み

やんわりと自分から離す。すぐにアスマに腕を反

され、逆に手首を掴まれ引き寄せられた。カカシ

が今度は強く、腕を振り払う。

 

「もう・・・、そういう関係じゃないだろう・・・」

 

「お前が一方的に終わらしただけだろう。俺

は・・・。俺は本当にお前を・・・」

 

「アスマには紅がいるでしょ」

 

 アスマの言葉が終わらないうちに、カカシが言

葉をかぶせる。

 

 アスマはカカシの言葉を聞き、一瞬無言になり

項垂れる。

 

カカシが少し明るい雰囲気で言葉を繋ぐ。

 

「クマみたいなお前を向こうから気にいってくれ

るなんて、後にはないぞ。大事にしなきゃ」

 

「・・・判ってる。紅の事は、大事に思ってる。

ただ・・・俺もばかだな。二人きりになると・・・、

我ながら未練がましい・・・」

 

 二人の間を沈黙が漂い、やがてカカシが言葉を

発する。

 

「アスマ・・・。話があったんだろう・・・?」

 

「ああ・・・」

 

 アスマが言葉を発しかけた時、ノックの音がし

て、紅が顔を出した。

 

 

 

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