過ぎゆく時に佇む
<4>
「紅か。どうした」
「アスマがここにいるって聞いてね」
紅がカカシの問いに答える。
「で、話って?」
カカシがもう一度アスマに話しをふるが、アスマは
席を立つ。
「いや、また今度にするよ」
並んで病室を出るアスマと紅。何か引っかかる気が
して二人の姿が見えなくなっても、ドアの方を見つめ
る。様子が違う。
アスマではなく、紅が。
すっきりしない気分を変えようとカカシはベッドか
ら降り窓を開ける。
「こらあ!病院敷地で遊んじゃ駄目って言ってるでし
ょ!」
「うわ〜、逃げるってば、コレ」
ふいに看護忍の怒鳴り声が聞こえ、カカシの病室に
面している中庭に視線を落とすと、アスマの甥を含む
3人の子供たちが一目散に駆けていた。
「元気だな・・・」
カカシは苦笑しながら、先頭を走って逃げるアスマ
の甥を目で追う。
あの子は偏見を持たずナルトを慕っている。柔軟な
精神を持つ才能ある子供。いずれ猿飛一族を背負って
立つ人材になるだろう。
子供・・・。カカシは改めてその言葉を頭の中で反
芻する。
ああ・・・・そうか、子供だ。紅に感じたいつもと
は違う気配。
女の子宮に宿る新たな生命。その事が何かの引っか
かりをもたらしていた。
友人を前に警戒心を張り巡らしていたわけでもなく、
さっきは察知できなかったが。アスマの話というのも、
おそらく子供が出来たという事だったのだろう。紅と
アスマの子供。
でかい図体して、実は同期の誰よりも繊細なアスマ
の心情を考える。
子供が出来た事を言いに来て、何未練こいてんだ
か・・・。カカシはつい先ほど、アスマに掴まれた腕
を見つめた。そしてもう一度窓の外、広がる青空を見
つめる。
「アスマ、親父になるのか。」
それぞれ今の自分達の教え子であるナルトやシカマ
ル達と同じ年頃だった日々に想いを寄せる。
先生の死で砕かれた心。
その破片を拾い集め、少しずつ繋ぎ合わせてくれた
のは、アスマだった。無骨さがよりその真剣さを伝え
るアスマに癒されたあの時代。
あの頃に、アスマと時を重ねたあの頃に、記憶が遡
って行く。
『あんまり無理するなよカカシ。顔色悪いぞ・・・』
『大丈夫さ。お前が思うほど疲れていない』
九尾来襲で四代目が亡くなった後、混乱を極めてい
た里を立て直そうと、里の者一丸となって復興に取り
組んでいた。
カカシもまた、身を削るかの如く復興に没頭してい
た。眠る事さえ拒否するようなカカシの動きに、アス
マは度々忠告を入れた。
『師匠を亡くして辛いのも判るけどな』
アスマの言葉に、カカシは一瞬たじろぐ。一度小さ
く息を吐き言葉を紡いだ。
『四代目の死を無駄にしないよう頑張るのは、里の者
として当然だろう』
『そうだけど・・・ほとんど寝ていなだろう?一人に
なるのが嫌なんじゃないか?』
『はあ?餓鬼じゃあるまいし、何言ってるんだよ』
ばかばかしいというような表情のカカシを無視して、
アスマは言葉を続ける。
『親父にも言ったんだ。カカシに無理させるなって。
そしたら休暇を取れと言っても取らないと・・・』
カカシはちらとアスマを見やった。
『親父さんと会話をしてるのか』
『いや、口を聞いたのは九尾来襲後初めてだ』
アスマが、偉大すぎる父に色んな葛藤を抱えている
事を同期の友人達は皆知っていた。
『俺の事よりお前だ。一人になりたくないなら、俺ん
ちへ来いよ』
『一人になりたくないなんて言ってないだろう。第一
火影の家でもあるお前んちはかえって落ち着かない』
『親父は火影室にいて家には戻ってないけどな。それ
ならおまえんちに俺が行くよ』
『だから、一人が嫌だなんて言ってないだろう、なん
でお前が来るんだよ』
『見はっとかないと、また任務に出てしまうだろう。
親父からは、お前に強制的に休暇を取らせることの了
解は貰ってる』
その日のアスマは忠告だけでなく、カカシの腕をと
り強引にアパートへ向かって歩き始めた。