除霊 宴の庭荘

宴の庭荘

 

<CRP>その2

 

小児・新生児科の医局前にテンゾウが着いた時

中から波風教授が出てきた。

無意識に自分の爪が掌に食い込むほどに拳を握り締める。

怒りを押し隠し、テンゾウは少し頭を下げた。向こうも

少し頭を下げ、互いにすれ違い真横に並んだほんの一瞬、

目と目で睨み合う。

 

そのまま教授は廊下を去り、テンゾウは小児科医局のドアを開ける。

「畑先生。」

テンゾウのおし憚らぬ大きな呼び声に、カカシの背がびくりと跳ねる。

「・・・あっと・・びっくりした。どうした?」

医局には他にもドクターがいた。

「お聞きしたいことがあって、来てもらえませんか?」

「えっと・・・、急ぎかな?俺、ちょっと検査結果待ちで・・・。」

「お手間は取らせませんから。」

 

きっぱりとしたテンゾウの言葉に、カカシは席を立つ。

廊下に出て医局のドアが閉まった途端、喋り始めた。

「あ〜、さっき図書室に来たの、お前だったんだな。」

「そうです。」

「誤解してるよね。絶対誤解してるだろう。」

「誤解ってなんです?」

「俺が、ミナト先生といちゃついてたとかさ。」

「誰もいない部屋で電気消して、いちゃつく以外する事あるんですか?」

「うわ〜、発想が中坊だよ。まだ思春期かお前、若いね〜。」

おちゃらけで誤魔化すカカシを、テンゾウは睨みつける。

 

「いや・・・あのさ、先生が図書室西側の窓からの

夜景が綺麗だって言うからさ・・・。外の夜景見るには、

部屋の明り消すだろう?」

子供なら泣くだろうというような形相でテンゾウに睨まれて、

カカシはおちゃらけをやめて話す。

「ちょっと待ってて下さい。」

テンゾウはカカシの言葉には答えず、整形・外科医局前に来ると、

中に入ってマスターキーをとってきた。

「さ、行きましょう。」

「どこへ?」

「いいから、来て。」

 

テンゾウは、カカシに有無を言わせずエレベーターに乗り込み

1階のボタンを押す。

ビュータイプのエレベーターが、夜空を割って降下する。

テンゾウが溜め息をついた。

「波風教授は、あなたの事が好きなんでしょう?

以前、循環器学会で九州に行った時、告白されたって言ってたじゃないですか。」

「うん・・・。」

「自分に好意を寄せてる人間と、わざわざ二人きりで

暗い部屋に行くんですね、あなたは。僕が入ったら、こそこそと逃げ出して。」

「逃げ出したわけじゃなくて、夜景を見終わったから、戻っただけだよ。」

「夜景なら、こうしてエレベーターでも見れますよ。」

「だから、図書室からは綺麗に見えるから。」

 

エレベーターが1階に着くと、テンゾウは

整形外来へ歩き出した。すでに全ての診療科は夜診を終えている。

廊下の電気も消され、非常口を示す緑色の明りだけが

ぼんやりと浮かんでいる外来廊下は、しんと静まりかえっている。

マスターキーを取り出し、テンゾウはすでに施錠された

整形科外来の診察室を開け、カカシの背中を押し、中に促す。

 

「テンゾウ、何でここに来たの?」

カカシは整形の外来に連れてきたテンゾウの真意が判らず

問いただす。

「ここは、色々揃ってますからね。」

「何が?」

カカシの質問に答えず、テンゾウは整形関連物品が入ってる棚を開ける。

カカシはやや不安になり、必死に話しかける。

「メール見ただろう。俺、担当してる子の採血検査を待ってるんだよ。

明日、どうしても妹のお遊戯会を見に外出したいって言うからさ、

炎症反応調べてるの。結果がマイナスなら、外出許可しようと思って。

親も準備があるから、すぐ検査してくれって言うしさ。

病棟ナースから連絡はいるんだよ。ねえ、テンゾウ聞いてる?」

 

「そこに横になって。」

テンゾウは、診察室の硬いベッドを指で指した。

「テンゾウ。ナースからPSH(ピッチ)に連絡が入るから。」

カカシは懇願するが、テンゾウの表情は変わらない。

「はやく、横になって。手を上に上げて。」

テンゾウの手には、棚から出した白い包帯が握られていた。

 

「電気の消えていた部屋で、あなたと教授の後姿を見つけた時の

僕の気持ちが判りますか?」

「テンゾウ、俺はミナト先生とは何もないよ。」

「大の男が、二人で夜景を見てただけ?」

「そうだよ。」

「横に並んで?肩とか組まれたり、手を握られたりは?」

「そ、そんなことは・・・ない・・・。」

「隠し切れないところは、可愛いですけどね。

許せはしないですよね。横になって。」

 

きっぱりとしたテンゾウの態度に、カカシは仕方なく

言われるまま診察台に横になる。テンゾウは頭元にしゃがみこみ

カカシの腕をまるで万歳するかのように上に上げて

包帯で診察台にくくりつけ始めた。

「弾力包帯は、小児循環器ではあまり使わないですかね。

かなりの強度で、括りつけるにはちょうどいい。」

「テンゾウ・・・、肩を組まれただけだって・・・。」

「肩を組まれて、逆らわなかったんですよね。」

「だって・・・先生にそんな逆らえないよ・・・。」

「肩組んだだけ?キスは?」

「キスって言うほどのものは、・・・ちょっと挨拶程度のもので・・・。」

 

生来の素直さから、どんどん露見していくカカシと波風教授の関係。

「セックスは?」

「それはない!絶対、してない!!

そんなんじゃないんだよ。ほんとに先生とは・・・。」

カカシから発せられる先生という言葉を聞くたびに、

激しい嫉妬に、身を焼かれるようだ。それでも、

カカシの言葉を信じようと思う。セックスはしてない。

でもキスは・・・したのだろう。

 

溜め息を一つついて、テンゾウはカカシへの罰を続ける。

カカシの両手を万歳の形で診察台に括りつけたテンゾウは、

カカシのベルトを外し、下着ごとズボンを足元まで引きずりおろす。

「テンゾウ・・ここでセックスするの?」

「ここは診察台ですよ。セックスする場所じゃない。」

「じゃ、何で脱がす・・・?テンゾウ・・・!?」

テンゾウはネラトンカテーテルと、

局所麻酔のゼリーを手に持っていた。

カカシは今から自分に施される事の想像がつき、青ざめる。

 

「テンゾウ・・・。お前まさか・・・。」

「暴れないで下さいね。傷つきますよ。」

穏やかにテンゾウに言われ、カカシは言葉を失う。

 

                      その3