不動産 賃貸 紙風船

泡沫の庭荘

 

 

紙風船

 

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 大学も冬休みになり、4年になれば就活と更に卒業

論文に追われる事を想定して、カカシは少しでも蓄え

ておこうとバイトのシフトを増やした。

 家庭教師のバイトと並行して行っているスナックは

忘年会帰りの二次会流れで賑わっている。カカシのシ

フトを増やして欲しいという申し出に、店長の方が喜

んでOKしてくれた。

 

 

 

 

大晦日も近づいたある日、ここ最近シフトの関係で

顔を合わせていなかった、ヤクザの左近と次郎が店に

やってきた。二人は月末にこの小さなスナックから、

用心棒代という名義で金を取りに来る。

 

「いよ〜、カカシ。会わなかったな、最近」

 

 カカシは適当に会釈だけ返す。

 

「お前も頭良いんだな。テンゾウさんと同じ大学なん

てな」

 

 途端に左近が次郎の足を蹴った。

 

「てめえ、余計な口きいてんじゃねえ。テンゾウさん

の事をベらベら喋るな」

 

「あ、すいません」

 

 次郎がペコペコと左近に頭を下げる。

 

カカシが軽蔑している二人が、テンゾウと一緒にサ

ークル部室にテレビを運んできて、テンゾウの後見人

が暴力団であるとカカシは知ることになった。もっと

も、そんな事はどうでもいい事だ。自分が出会って話

して、そして感じた感性が大事で、環境や周囲の評判

などは、誰かを判断する材料にはならない。

 テンゾウはカカシにとって、会って話して、そばに

いることが心地よい人、だった。

 

 

 サークルの忘年会があった日、テンゾウに好きな人

がいると聞いて、カカシは不愉快な気分になった。

 後輩というより、親友の様な気持でいるので、好き

でも、告白出来ないという何だか煮え切らない態度の

テンゾウに腹を立てたのだろうと、自分なりに不機嫌

の理屈を並べてみたりしたが、しっくりとはしない気

分でいる事は、どうしようもない事実としてカカシの

心に巣くっている。

 

 テンゾウとは、カカシは表面上以前と変わりなく接

している。しかしどこか違う。違和感が拭えない。

自分がテンゾウに対し抱いている感情は、いったい

これはなんなのだろう・・・。

 

 

 テンゾウに対しての感情は掴めない日々を過ごしな

がらも、当面、カカシにとって重要な事は就活だった。

親を小さい頃に失ったカカシにとって、職業に就き、

社会人として自立するという事は悲願の様なもので、

ごくありきたりな、どこにでもある普通の生活、家庭、

それらがカカシにとってはとても大きな希望だった。

 

 

 

 

 冬を越し、桜がピンクの花を身にまとい、その美し

さに人々の称賛を一人占めする美しい季節が訪れる。

また新しい1年生を迎え、サークルの勧誘の声が響

く頃、4年になったカカシは意中のメーカーからの内々

定を貰った。

 

 

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