紙風船
第20話
大学4年の後期は瞬く間に過ぎていく。卒業の日を
迎え、映研サークル後輩主催の卒業追い出しコンパが
開催されていた。
「おおい〜、カカシ〜・・・俺はな〜、お前と離れら
れて清々する!いいか、淋しくない、聞いてるか〜・・・」
「はいはい・・・」
宴半ばで既に酔っ払っているガイがカカシに絡んで
いた。
「淋しくない!、判ってるか」
「うん、わかってるよ」
カカシの肩にしっかりと腕を回してガイは淋しくな
いと連呼している。
「もう、ガイ先輩、カカシ先輩を独り占めじゃない」
「しかたないよ、淋しいんだよ。ガイ先輩は」
「好きなんでしょうね、カカシ先輩のこと」
「まあ、本人は認めないだろうけど」
テンゾウは他の後輩と共に笑いながら酔っ払いガイ
を見て、内心今日はガイ先輩と一緒コースだなと考え
ていた。
カカシの卒業だから、出来れば二人で過ごしたかっ
たが、仕方ない。
酔っ払ったガイを介抱するのはいつもカカシの役目
で、そういう時はテンゾウの家に流れ込むのが常だっ
た。
「あんたは割と平気そうね。カカシ先輩と仲いいのに」
余裕の表情で酔っ払いガイを見ているテンゾウに一
学年上のあんこが話しかけてきた。
カカシとはまたいつでも二人きりで会える。いや、
今日だって実はテンゾウのマンションから一緒にこの
店に来たのだ。
「実を言うと女子達に抜けがけして、僕はカカシ先輩
と付き合っているんですよ」
テンゾウが言うと、あんこがにたっと笑った。
「最初はなんか得体の知れない奴って思ったけど、二
年も経てばあんたも冗談いうようになったんだね」
「はは・・・」
テンゾウは事実を言ったのだが、あんこは取り合わ
なかった。もちろん、本気にされないと判っていて言
ったのだが、心のどこかでカカシと一緒の大学生活は
最後となるこの日に、真実を言いたくなったというの
もあったのだ。
会もやがて終わりを迎え、後輩達は四年生の周りに
集まり、女子たちはみな泣いていた。そうして沢山の
余韻を残しながら、それぞれ散っていく。
予想通り、酔っ払いガイは一人で帰れる状態ではな
くカカシと二人で抱えながら、テンゾウのマンション
へ向かう事になった。
酔っ払い筋肉バカをゲストルームのベッドにどさっ
と投げ出し、二人はソファへ座りようやく息をつく。
「悪いね、いつも」
「カカシ先輩が謝らなくても。それに今日は特に仕方
ないですよ。大学最後なんだからハメ外すのも当然」
「うん、そうだね。俺もさすがに淋しいよ、やっぱ慣
れた環境から離れるのはさ」
穏やかに少し淋しげに微笑むカカシの横顔を見つめ、
テンゾウはその頬にキスをして、抱きしめた。
「めちゃくちゃ超赤面もののセリフ言っていいですか」
「何?」
「僕とはずっと一緒ですから」
「はは・・・ほんと聞いてる方も赤面もの」
「この流れでしたいけど、ガイ先輩がいるからキスだ
け」
そう耳元で囁いて、テンゾウはカカシに口づける。
「ん・・・・」
濃厚な口づけからカカシの唇をようやく解放したテ
ンゾウがもう一度囁く。
「やばい、我慢出来なくなりました」
「え?何言って・・・」
「風呂、ふろへいきましょ」
「ガイがいるのに・・・」
カカシの抗議の声もか聞かず、テンゾウは腕を掴み
浴室へとカカシを連れて行く。
自分の服を性急に剥ぎ取り、カカシの服も脱がせる。
浴室内へ入ると再び濃厚なキスを仕掛ける。カカシの
体をしっかりと掴みながら片手で器用にシャワーの栓
を捻る。温度が安定した頃、抱いたカカシの体ごとそ
の湯を浴びる。
濡れた肌に深い愛撫を刻みながら、テンゾウの指は
カカシの秘部へ向かう。
「手、ついて・・・」
テンゾウはカカシの腕を浴室の壁につかせて、欲情
の楔を打つ。
「あ、ああ・・・・」
当初体を繋げる行為はカカシの身体に多大な負担を
敷いたが、いつの間にか、快楽の応酬を得る事が出来
るようになっていた。
「あん・・・・あっ・・・・あっ」
シャワーの音に紛れ、肉を打つ音、カカシの小さな
喘ぎが響く。カカシに限界が訪れた時、テンゾウもま
たカカシの最奥に熱を放った。
「強引だな・・・・ガイがいるのに」
「僕はバレたって構わないんですけどね」
テンゾウがいたずらっぽく言い放つ。
「そうだな。ガイは親友だから・・・いつか話すよ、
俺たちのこと」
カカシがそう言うと、テンゾウは嬉しげに濃厚なキ
スを仕掛けて、カカシから頭を叩かれた。
カカシが会社員となり学生に比べて断然忙しくなり、
また会社員同士の付き合いというものが発生するので、
テンゾウとの週末のデートをキャンセルすることが
時々あった。
付き合いについては理解しているが、沢山の人が勤
める会社にはカカシを気に入る女子社員も、中には男
性社員もいるだろうと思うと、落ち着かない気持ちに
なる。
自分も早く独立し、出来ればカカシと同居したいと
いう想いが日毎に大きくなり、テンゾウは司法試験の
準備を本格的にはじめることにした。
暴力団絡みの仕事をするための弁護士、けして自分
が望む未来ではないが、それでも報酬を得られること
には違いはない。
テンゾウは以前カカシに自身の境遇を話し、人生の
レールが決まっている事を打ち明けたとき、『自分を見
失わなければいい』と答えてくれた事が今も心の拠り
所となっていた。
仕事を持つ立場にならなければ、まずはそこだ、不
安な気持ちは勉強に打ち込むことで払拭させていった。
そうしてカカシが社会人2年目、テンゾウが大学4
年になった春、テンゾウの養父である大蛇丸組組長が
右腕としている若頭、薬師カブトから、大事な用があ
ると電話が入った。