紙風船

泡沫の庭荘

 

 

紙風船

 

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 凍てつく寒さが目に見えぬ空気もピンと張り詰めて

いるように感じさせる。

 

漆黒の闇が覆っていた夜からようやく東の空に微か

な日の光が見える頃、カカシは右手に封筒二通、左手

にボストンバッグ一つを持って大学時代から住んでい

るワンルームマンションを出た。

 

路地の角にあるポストの前に来ると、二つの封筒の

宛名を見つめる。

 

一つは会社宛。中には退職届と保険証、社員証。そ

して突然の行動を詫びる直属の上司への手紙。もう一

つは大家へ、退去するという意思表示と、部屋の中の

ものは全て処分してもらっていいという内容の手紙と、

翌月までの家賃相当のお金。

 

 封筒二通をポストに入れると携帯電話を取り出した。

 

「もしもし。おはよ、やっぱり起きてたな」

 

「いや、さすがにこの電話で起こされたとこ・・・」

 

「それでもこの時間に出てくれるとこがすごいよ、ガ

イ」

 

「ふわ〜・・・。なんか用か?」

 

 カカシは少しの間沈黙して、やがて言葉を発した。

 

「ガイ、お前には本当のことを話しておこうと思って」

 

「なんだ?こんな朝早くに何の話・・・」

 

「俺さ、テンゾウと付き合ってる」

 

「・・・はあ・・・?」

 

「友人としてじゃなく、恋人っていう意味で付き合っ

てる。でもテンゾウの家に、大蛇丸一家に反対されて

いるんだ。説得が通じる相手ではないから今から成田

に向かって、二人で海外で暮らすつもりだ。しばらく

会えない。落ち着いたら俺から電話するから、どうか

探さないでくれ。大蛇丸組に追跡されないようこれ以

降、この電話も使わない」

 

 カカシは一気に話した。そうしなければ伝えきれな

いような気がして。

 

「カカシ・・・。まだ頭がはっきりせん・・・。なん

かの冗談か?」

 

「はは・・・そう思うよな。でも違う」

 

「会社は・・・?」

 

「今、退職届を郵送したよ」

 

「本気か?」

 

「うん、ガイ、わかってくれ。俺は今、自分がそうし

たいから行くんだ」

 

「もういっかい聞くけど・・・本気で?本気で男と駆

け落ちするのか?」

 

「そう。テンゾウに一緒に来て欲しいと言われて、心

から嬉しかった。しばらく連絡つかなくても心配しな

いで。アスマや皆にもそう言っておいてくれ」

 

「カカシ・・・」

 

「もう行くよ。またな、ガイ」

 

 カカシは携帯の電源そのものを切った。そうして角

を曲がり大通りへと向かう。そこには車にもたれてカ

カシが近づくのを笑顔で迎えてくれているテンゾウの

姿があった。

 

 

 

 数ヶ月前テンゾウと別れろと脅され、大蛇丸組に激

しい暴力を受けたカカシは入院した。

カカシの事を思って別れるというテンゾウにカカシ

は怒りをぶつけ、そんな考え方は傲慢だと、まずは自

分の幸せを考えろと、そう告げた。

 

 

 

 ようやくカカシが退院し、マンションまで送って来

たテンゾウはその日、カカシに結婚を申し込んだ。

同性を許してくれる海外の教会で式を挙げようと、

そしてそのまま二人で暮らして欲しいと、会社も友人

関係もその全てを捨ててついて来て欲しいと、それが

自分の幸せだから。

そして次はカカシに選んでくれと、カカシがカカシ

自身の幸せを考えて、断るのか受け入れるのか決めて

欲しいと。

 

 幸せな告白だった、最高に。

 

二人で暮らす、それはテンゾウの為ではなく、カカ

シが選んだ自分が幸せになるための結論だった。

 

 その日、カカシの傷をいたわりながらもテンゾウは

カカシを抱いた。

優しく、そして緩やかに、カカシの身体のすみずみ

まで愛撫し、そして貫き、共に果てた。

 

 

 

 その日以降、二人は別々に行動し一見別れを装い、

海外渡航への準備を進めた。カカシはパスポート申請

から必要で、もちろんある程度の資金も互いに用意し

なければならなかった。そしてようやくこの日を迎え

たのだ。

 

「カカシさん」

 

「テンゾウ」

 

 カカシが近づくと、テンゾウはその腕を捕まえ、そ

うして深い口づけを与えた。いつまでも開放しそうに

ないテンゾウの唇に、カカシは従っていた。しばらく

後ようやく放され、テンゾウはカカシに話しかける。

 

「じゃ、行きましょうか」

 

 

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