泡沫の庭荘

 

 

紙風船

 

3

 

 翌日、テンゾウは誰かの大声で目を覚ます。

と横を見ると、カカシはまだ眠っていた。昨日と

あまり位置が変わっていない。

パイプベッドの幅での癖がついているのかな

と思う。もっと、広々眠ればいいのに。

 

「どこだ此処は?おい!カカシ!カカシは!?」

 

 どすどすと音がして、寝室のドアがバタンと開

かれる。

 

「あれ、テンゾウ・・・?そういえばおまえんち

行くって言ってたな・・・」

 

 ガイは視線を動かし、キングサイズのダブルベ

ッドの端にカカシが寝ているのを見つける。

ガイはベッドへ近付き、カカシの頭をバシッと

はたいた。

 

「いて・・・。もう、うるさいガイ・・・」

 

 カカシが叩かれた頭を押さえて、寝がえりを打

つ。

 

「おい。なんでお前だけベッドで寝てんだよ。起

きろ!」

 

 ゆっくり眠っているカカシに対してのガイの

乱暴さが、テンゾウの神経を逆なでする。

 

「ガイ先輩、カカシ先輩は、昨日やたらと重いガ

イ先輩を運んで、ここまで来てくれたんですよ」

 

「そうそう、テンゾウも一緒に運んでくれたんだ。

お前ちゃんと礼、言えよ」

 

 カカシがベッドに寝そべったまま、ガイに言う。

 

「そうか・・・そりゃ悪かったな。よし。じゃあ

礼になんかするぞ。とりあえず朝飯だな。それか

ら掃除でもするか」

 

「え?そんな、いいですよ、必要な・・・」

 

 テンゾウが止める間も無く、ガイはドスドスと

寝室から出て行く。

 

「はは・・・あいつ無駄に元気だろう?」

 

 カカシがうーんと伸びをして、ベッドの上に起

き上がる。

 

「ほんとですね。昨日ヘロヘロだったのに、二日

酔いはないんでしょうか・・・」

 

「あいつの辞書に二日酔いはないんだよ。とにか

く朝になれば元気だから」

 

 カカシが寝乱れた髪をかき上げながら、テンゾ

ウに微笑んだ。

 

「やっぱ、豪華なベッドはいいな。ものすごく眠

りやすかった」

 

 何気ない動作が、カカシの柔らかな優しい雰囲

気を醸し出していて、テンゾウはつい見つめてし

まう。ガイとは、人種が違うようだ。

 

「良かったら、いつでも泊まりに来てください。

このベッドでいいならいつでもお貸ししますよ」

 

「そんなこと言ったら、俺本気で来ちゃうよ。大

学近いし」

 

「ほんとにいいですよ。カカシ先輩なら、歓迎し

ます」

 

 

 二人が寝室からリビングに移動したところで、

インターホンが鳴る。

 

「あ、ガイ先輩。ほんとに朝食作らなくていいで

すよ。手伝いが来たので」

 

 テンゾウは冷蔵庫をあさっているガイに声を

かけ、インターホンに出た。

 

「和美さん?おはよう、今開ける」

 

「手伝い〜?おい、こいつかなりの金持ちみたい

だな」

 

 ガイが驚いてカカシに話しかけている間に、年

配の女性が入ってきた。

 

「あら、お友達がいらしてたんですか?」

 

「サークルの先輩。この方たちの分も朝食作って

ください」

 

「ハイ。わかりました。」

 

 女性は慣れた手つきで、3人分の朝食をテーブ

ルに並べた。

 

 

朝食を食べ終え、なんとなく3人はリビングに

移動する。手伝いの女性は、洗濯を回しておいて、

昼の食事の買い物に出かけた。

 

リビングにある3D対応ブルーレイディスクの

付いた50インチの液晶テレビを見てガイがま

たもや大声を出す。

 

「ぎょー、3Dでブルーレイじゃん!お前、嫌味

なくらい金持ちなんだな」

 

「金持ちは僕じゃなくて、後見人ですが・・・」

 

 自嘲気味な言葉に、カカシはテンゾウを見つめ

る。

 

 ガイは、テレビに近寄り、ぺたぺた触りはじめ

た。

 

「すげえな。映研サークルというのに、部室にあ

るのはいまだVHSだぜ。テレビも中古の21イ

ンチだし」

 

「そう言えば、そうでしたね・・・」

 

「せめてDVDに買い替えようと部費集めてるけ

ど、結構値が張るしな。映画館行くのにも金はか

かるから、部費の値上げも出来ないし」

 

 カカシが言うと、テンゾウがカカシの方を向い

た。

 

「あ、じゃあ、これ買い換えるまで置いてたDVD

とテレビをサークルに寄付しましょうか?」

 

 ガイがまた大声を出す。

 

「マジで?いいのか?」

 

「いいですよ。後見人のく・・・会社の事務所に

置いてあるので、大学に持っていきます」

 

「いいのか?」

 

 カカシも聞く。

 

「ほんとにいいですよ。いらないから事務所に持

っていったので」

 

 

 しばらく他愛ない話をし、適当なところでカカ

シ達は帰るからとテンゾウに挨拶をする。

 

「悪かったな。何からなにまで」

 

 カカシの言葉に、テンゾウはかぶりをふった。

「いいえ、またいつでもどうぞ」

 

 テンゾウは、カカシを見つめて言った。

 

 

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