テンゾウの言葉を聞いて、カカシの目が大きく見開かれ
白い肌が紅く色づいていく。頬から首筋、耳までも薄紅く染められた。
そして戸惑いの表情。テンゾウは思う。
6歳で中忍になったというこの人は、天才ゆえに
さまざまな任務についてきただろう。数々の修羅の場を経験したその人の、
こんな頬染めた表情を見ることが出来るのは、自分に与えられた特権だ。
愛する事を許された特権・・・。こんな表情が見られたなら、
今日は断られても仕方ないかなと思う。もとより、無理強いするつもりも無い。
カカシがテンゾウを見上げていた顔を下に向け、ポツリと言う。
「まだ、昼間じゃない。」
「ここは、上忍寮の最上階だし、誰も見るものなんていませんよ。」
「まだ、明るい・・・。」
「カーテン閉めればいいですよ。」
「カーテン閉めたって、まだ薄明るいよ。」
「僕はそのほうが良いですけど。先輩をよく見たいので。」
「・・・お前、よく平気でそんな恥かしい事言えるな・・・。」
「平気なんかじゃ無いですよ。聞きますか?心音。」
「え?」
テンゾウは風呂上りで、ズボンは履いていたが、上半身は裸だった。
椅子に座ったままのカカシの高さに合わせて中腰になり
カカシの頬を軽く押さえ、その耳を自分の胸の位置に合わせた。
忍は、限界を超えた身体の鍛え方をしており、
当然心肺機能も高められ、大概の事では息も上がらないし、動悸もしない。
それなのに、ただ立っているだけのテンゾウの心拍は
確かに通常より速い鼓動を刻んでいた。そうか・・・、とカカシは思う。
落ち着き払っているように見え、自分だけ動揺させられている気がしたが
テンゾウもいっぱいいっぱいなんだなと。
カカシはテンゾウの胸から耳を離し、顔を上げてテンゾウを見た。
「速いでしょう?こんな時に出るアドレナリンは
いくら修行しても抑制できないですよ。」
そう言ってテンゾウは、はにかんだように笑った。
上半身をさらしたテンゾウはしなやかに筋肉が発達し、
昨日、感じたとおり胸板は出会った頃より一回り大きくなっている。
その笑顔は眩しくて、そしてかっこいい・・・。
出会ってから、たくさんテンゾウに助けられた。
自分のほうが先輩で、忍術使いとしての実力も
やはり自分のほうが上ではないかと思う。
それなのに、いつもテンゾウに支えられているのは自分だ。
「俺で、いいの・・・?」
テンゾウが好き。テンゾウになら、きっと何をされても構わない。
「先輩こそ、僕でいいんですか?」
テンゾウはカカシに聞きながら左手でその手を取り
右手をカカシの腰に当てそっと立たせた。
カカシは抵抗せず、素直に立ち上がる。
テンゾウはその行動がカカシの答だと受け止める。
頬を押さえその唇を奪う。激しく、角度を変え何度も何度もカカシの舌を絡め取る。
口腔内を蹂躙されながら、カカシはテンゾウの答を知る。
自分で構わないのだと、このままの、ありのままの自分を愛してくれるのだと。
ひとしきり、カカシの唇を奪い続けてようやく解放した後
テンゾウはカカシを半ば抱きかかえるようにベッドへ誘った。
そうしてカカシをベッドに横たえ、再びその唇を奪う。
すると、何故かカカシがテンゾウの背中を叩き、抵抗する。
テンゾウが口付けを止めてカカシを見つめると、
恥ずかしそうに横を向いて小さな声で呟いた。
「・・・カ、カーテン・・・。閉めるって・・・。」
テンゾウは一瞬息が詰まった。何なのだろう、この人のこの可愛さは・・・。
言われた通りカーテンを閉め、そして子供時代のカカシが、
その心に今だ大きく存在する人々と一緒に写る写真立てを裏向きにした。
そしてテンゾウは、出会った時から想い続けた人の唇をみたび奪った。