翌日の任務は、ビンゴブックに載っている霧隠れの抜け忍が、
短冊街に潜んでいるという情報が入り、それを確認、捕獲というものだった。
三代目から、テンゾウが一市民として街に入り
カカシは後方支援として、密かに潜入するのがいいだろう
という提案があった。
「カカシは目立ちすぎるからのう。市民に混じるのはテンゾウのほうが適任じゃ。」
テンゾウ自身、カカシの素顔をさらすなんて
とんでもないとの思いがあったので、その案が最適だと思う。
続けて、三代目が言う。
「そうじゃ、くの一も手配しよう。あのような街では、男女の方が怪しまれまい。」
早速くの一が呼ばれた。、お宮というカカシより少し年上位の、
やたらと妖艶な魅力のある女だった。
「お宮は、こういう恋仲男女に化ける潜入操作に慣れておる。」
三代目がそう言って笑いながら続けた。
「テンゾウよ、お宮の魅力に惑わされて任務を忘れんようにな。」
「まさか、そんな。」
テンゾウは、普通に否定したつもりだったが、三代目が声をあげて笑った。
「はは、まあ、照れずとも良いではないか。それに任務後は自由じゃからの。」
お宮というくの一も、赤い紅をさした少し厚みのある唇を綺麗に広げて笑った。
「よろしくね、テンゾウ。」
確かに美人だが、とテンゾウはくの一を見た。
全く興味は沸かない。唇も、カカシのように薄いほうが好きだと内心思う。
その時、ほんのわずかに殺気を感じた。本当に僅かに。
テンゾウは、慌ててカカシの方を見た。
しかしカカシは、任務に向かう時のいつもの冷静さで指示を出しはじめていた。
テンゾウは、気のせいかと思いながらカカシの指示を頭に入れる。
詳細確認しあい、テンゾウとくの一、
カカシ一人の二手に分かれて短冊街を目指した。
短冊街に入ると、お宮がテンゾウの腕に自分の腕を絡ませた。
テンゾウは少し驚いた。テンゾウがたじろぐのを感じ、お宮が笑いながら言う。
「あら、テンゾウ。私達、今から連れ込み宿に一緒に入るのよ。
腕ぐらい絡めないとかえっておかしいでしょ。」
それは確かにそうだとテンゾウは思った。
これは任務だ。しっかりしなくては、指揮官である先輩に怒られる。
「じゃあ、行こう。」
テンゾウは、お宮としっかり腕を組んで、
さも親しげに、頭まで凭れて来るお宮を抱きかかえるように、
事前に情報のあった連れ込み宿に入った。
カカシはその姿を隠し、どこからか忍び込んでいるはず。
通された部屋は、当然ながら趣味の悪い派手な布団が敷いてある。
お宮はその布団の上に足を投げ出し座った。
「なにしてるんですか?各部屋の探索に行きますよ。」
「まあ。いいじゃないの。そんな慌てなくたって。
どうせ、カカシも今頃進入して探索に当たってるでしょ?」
「だから、急がないと。先輩だけ、危険な目に曝すわけにいかない。」
「やーねーカカシなら大丈夫よ。あんた、カカシと組んでるなら、
あの子の強さ知ってるでしょ?」
テンゾウは、やや論点のずれた会話に脱力した。
「そういうことじゃなくて、これは任務なんですから、
早く霧隠れの抜け忍を探さないと。」
「ハイハイ、判った。じゃあ、任務さっさと終わらせましょう。
お楽しみは後がいいわよね。後でね。テンゾウって真面目で
可愛いわよね。私、気に入っちゃたあ。」
何だか少し言葉に引っかかりを感じつつ、テンゾウは廊下に出て、お宮と二手に別れた。
テンゾウとお宮は、御不浄の帰りに部屋を間違った振りして
堂々とふすまを開けていく。
いずれの部屋も、男女が絡んでいる最中だったり、事後だったり。
「なんだ!?てめえは!!」
「すいません、部屋間違えました。」
時に灰皿なんかも飛んで来たが、忍の俊敏さで避け次の部屋へ移動する。
そうしてお宮がターゲットを見つけた。
私服を着て、気配を消し木の葉の忍とは気づかれていない。
合図でテンゾウもその部屋の前に移動する。
未だ、姿を見せぬカカシにテンゾウは呼びかける。
「先輩、いいですか?」
「ああ、いつでも。女はただの商売女だ。殺すな。後で俺が記憶操作する。」
「了解。」
カカシは姿を出さぬまま、指示を出す。
お宮も腕の立つくの一で、三人の連携により抜け忍捕獲はすぐに完了した。
抜け忍を拘束し、三人は元々テンゾウ達が通された部屋にいた。
「ねえカカシ。こいつの連行、一人でお願いできなかしら?
私達さっき約束したのよ。任務後残って楽しみましょうって。ねえテンゾウ。」
「は?はあ!?」
有り得ない、お宮の言葉にテンゾウは驚愕する。
「約束なんていつしました!?」
「さっき、この部屋入って言ったじゃない。後でねって。」
お宮が妖艶に微笑む。
「してない!そんな約束してません!」
テンゾウは必死で否定した。
「酷いわ。テンゾウ。女の私に恥かかせるの?」
少しも傷ついていない微笑を浮かべ、さらにお宮がたたみ掛ける。
「・・・・・テンゾウ。こいつの連行は俺一人いいから。」
カカシが抑揚のない声で冷静に言い、抜け忍の縄を引っ張り歩き出した。
「先輩!待って下さい。待って!!」
カカシは捕虜とともに、瞬身で姿を消した。