後に残されたテンゾウはその場に立ち尽くし、カカシの言葉を反芻する。
『俺の事を好きでいてくれるのは、嘘じゃないと判ってる。』
『試して、やっぱり駄目だったんだろう』
どうやらカカシは勘違いをしている。任務中はあれほど鋭い人なのに、
自分がどれ程夢中で、どれ程大切に想い、その身体を抱きしめたか。
それが何故、わからないのだろう。
初めて会ったときから惹かれていた。やっと想いが通じたこの時を、
大切に大切に過ごしたいと思っているのに。
気も使っている。最初はやはり辛そうにしてたから、
毎日でも求めたいのを我慢して・・・。
テンゾウはそこでようやく、カカシの勘違いの理由に辿り着く。
「あ・・・そうか・・・だから。」
気を使っていたつもりだったが、
よそよそしく感じていたのかもしれない。
そこに何故だか自分を気に入ったらしい、お宮さんが現れ、
さらに誤解を招いたのかも。
テンゾウは、カカシの家に歩き出した。
不在でも合鍵を持っている。待てばいいだろう。
そして・・・。テンゾウは考えた。
帰ってくれば、思い切り抱きしめ口付けをし、そして離さない。
彼が抵抗しようとどうしようと、例え拘束してでも彼を抱く。
テンゾウは、初めてのときのカカシを思い返す。
ベッドに横たわる細身の白い身体。
恥ずかしそうに手の甲で口を押さえ、その艶やかな声を耐えていた。
テンゾウを受け入れながら、シーツを握り締める細い指。
ぐったりと横たわる姿さえ美しい人。
彼以外の人なんて目に入らない。全身全霊で愛している。
その想いがもう一度彼に伝わるように、
一晩中でも抱きしめよう。
テンゾウはカカシの部屋に向かう途中で、
見慣れたひょろりと背の高い愛しい人の姿を見つけた。
駆け寄ろうとすると、お宮が現れる。
「カカシ!ちょうど良かった。ねえ、あんたテンゾウの家知らない?」
カカシが無表情に答える。
「知ってる。」
「じゃあ教えて。私さあ、あの子気に入ったのよね。いわゆるタイプ。」
コロコロとお宮が笑う。
無表情だったカカシが少し笑った。
「お宮さんは正直だね。俺なら、そんなふうにすぐに気持ちを言えないな。」
「あら、それじゃ駄目よ。黙っていても想いが通じるなんて、
御伽噺よ。好きなら好きってはっきり言葉や態度で伝えないと。」
「そうか・・・。そうだね・・・。」
「忍は裏の裏を読めって云うけど、そんなの任務中で充分じゃない?
好きな人の裏をかく必要がある?はっきり言えばいいのよ。」
「ほんと、そうだ・・・。」
カカシは少し俯き、ふと気配に振り返ると、テンゾウがすぐ傍まで来ていた。
「あらあ。テンゾウ。やっぱり縁があるのかしら。探してたのよ。」
お宮は笑みを浮かべた。
「ね、さっきは悪かったわ。せっかちだったわよね。
どう?今夜、夕食に一緒に行かない?」
テンゾウは首を振った。
「すいません。僕は付き合ってる人がいるので、あなたと食事にはいけません。」
テンゾウがきっぱりと断り、カカシはテンゾウを見つめる。
「あらあら、いきなり振られるの?私。」
「お宮さんの言われた事、その通りだと思います。
言葉や態度で示さないと伝わらない。
僕は今付き合ってる人を誰よりも大事に想っているのに
それを、ちゃんと伝えていなかった。」
テンゾウはカカシの方へ振り向いた。
カカシと目が合う。
「僕は、その人だけを愛してる。」
カカシの目を見て、テンゾウは言った。
「ちょっと、テンゾウ。あんたまるでカカシに言ってるみたい・・・。あれ・・。」
お宮が首をひねった。
「え?まさか・・・。」
「お宮さん。有難う。今は失礼します。」
テンゾウはお宮に会釈をし、カカシの腕を掴んで、歩き出した。
カカシもテンゾウに腕を掴まれたまま、大人しくついて行く。
「ウソお・・・?まさかねえ・・・。」
後に残されたお宮はしばらく、遠ざかる二人の姿を呆然と見ていた。
戻る 続く