そうして二人はしばらく抱き合っていた。
荒い息使いがおさまる頃テンゾウはカカシに、
もう何度目か判らない熱い口付けをして
ようやく身体を起こす。まだ、薄く日差しが残っている時間
白い肌に残る自分が愛した痕。
涙の乾ききっていない目じり。
ぐったりと手足を投げ伸ばしたまま、動かないカカシが目に入る。
「大丈夫ですか?」
「うん・・・。」
少しも大丈夫ではないような風情でカカシが頷く。
テンゾウはやはり無理をさせたと反省する。
「ほんとにすいません・・・。夢中になりすぎちゃって・・・。」
テンゾウの言葉を、カカシはまだぼんやりとした意識の中で反芻した。
夢中・・・?テンゾウは俺を抱いて、楽しめたのかな・・・?
身動きしないカカシにテンゾウは掛布をかけながらもう一度謝る。
「すいません・・・。次はもっと、ちゃんと先輩がいいように、
あの、気をつけますから。」
「・・・テンゾウはよかった?」
「えっ?も、もちろんですけど・・・?」
カカシは少し微笑んだ。
「だったらいい。テンゾウが良かったなら。」
カカシの言葉に、テンゾウはカカシへの想いが
身体から零れるほどの感覚に再び落ちる。
本当にこの人が好きで好きでたまらない。
「そんなこと言われると、今すぐまた抱きたくなります。」
カカシの目が大きく見開かれ、大きく首を振った。
「そ、それは困る。」
「はは・・わかってますよ。」
テンゾウはベッドの端に腰掛け、寝乱れて額にかかるカカシの髪を梳いた。
愛しい想いが伝わるように、優しく何度も髪をかきあげた。
「・・・身体拭きましょうか?それともシャワー浴びますか?」
「シャワー浴びる。」
「じゃあ、僕も一緒に。」
再びカカシが首を振る。
「いいよ。一緒なんて恥かしい。」
「まあ、そうなんですけど・・・。」
テンゾウがいいにくそうに、ぼそぼそと答えた。
「あの、僕夢中になりすぎてですね。中に・・・
だからちゃんとしないと・・・先輩が辛くなるっていうか・・・
でも、先輩に自分でというのも・・・。」
テンゾウの言おうとしている意味が判り、カカシは固まった。
次の瞬間、掛布を顔まであげて隠す。
「やだ、もう・・・。」
「だから、僕がしますから。」
「それが恥かしいんだよ、バカ!」
バカと言われてテンゾは苦笑する。
「バカでも、間抜けでもいいですけど、シャワー行きましょう。」
カカシはテンゾウに抱きかかえられるように、シャワールームへ行った。
シャワーを終え、カカシはそソファに寝そべっていた。
テンゾウがキッチンでコーヒーを作っている。
身体に残る痛みが、テンゾウに愛された事が現実だと思い出させる。
考えられないような恥かしい事も、テンゾウになら許せてしまう。
身体中から、テンゾウへの想いが溢れる。
誰かを本気で好きになる事にずっと臆病だった。
失う苦しみが辛すぎた。そして幸せに出来なかったリン。
けれど今は、自分の幸せをきっと願ってくれるはずだと思える。
そんな風に思えるのは、テンゾウを本気で好きになったから。
本当に好きだから、テンゾウに幸せでいて欲しい。
自分を想ってくれた人達も、きっとそういう風に願ってくれていると信じられる。
テンゾウがコーヒーを差し出した。
「どうぞ。」
見上げて思う。この笑顔が好きだ。ずっとそばで見ていたい。
カカシはコーヒーを受け取るため、寝そべってる姿勢から座りなおした。
身体に痛みが走り、一瞬、顔をしめてしまう。
「まだ、痛みますか?傷にはなってなかったですけど。」
「腰がちょっとだるいだけ。」
テンゾウは真面目な顔をして言った。
「すいません。僕先輩が苦しむような事はほんとに許せないんですが、
抱くのは止められない。」
カカシが吹き出した。
「そんな事、真面目な顔して言うなよ。
だいたい、今日で終わりだったら俺のほうが傷つくだろ。」
「じゃあ、いいんですよね?」
再び笑顔になったテンゾウをカカシは手招きした。
自分の横に座ったテンゾウに、カカシは自分から口付ける。
身体中から零れるほどの想いが、テンゾウに伝わるように。
口付けを交わし、コーヒーを飲み、ゆったりとした時が流れた後、テンゾウが聞いた。
「晩御飯何が食べたいですか?」
「ああそうか・・・。今から夜なんだ。なんか時間の感覚がおかしい。」
「今夜も泊まってもいいですか?あ、何もしませんから。」
カカシが笑った。
「俺も泊まってくれたら嬉しい。」
カカシはテンゾウを見つめて、ふと気づいた。
「そういえば、お前その服どうしたの?」
テンゾウはラフな室内着を着ていたが、カカシの家の物ではなかった。
「ああ、昼のパスタを買いに行った時、ついでに買ったんですよ。
他にも歯ブラシやら、着替えやら。ここに置いていってもいいですよね。」
「はあ・・・。お前最初から今日も泊まる気だったんだ。」
「泊まるというのが目的ではなくて、先輩を抱くのが目的だったんですけど。」
「テンゾウさあ、今日は一日そういう恥かしい事、口に出して言ってるよ。」
ストレートな物言いにをするテンゾウに、カカシがややあきれて言う。
「むっつりよりいいじゃないですか。今度うちに来るときは、
先輩の泊まり道具持ってきて下さい。」
ニコニコとテンゾウが返事する。
カカシは考える。そうだ、一緒に暮らしたり、
この関係を誰かに知られたりは出来ないから、
だから、お互いの家を行き来しながら、テンゾウと共に時を重ねよう。
夕日の赤い色が窓からさし込む。
茜色に染まる部屋で、二人の唇がまた重なりあった。