「先輩、任務服じゃゆっくり出来ませんから、シャワー使って下さい。
着替えはすいませんけど僕のトレーナーでも着て・・・。あ、下着はこの前買ったばかりのありますし。」
「お気遣いどうも・・。」
カカシはテンゾウの言うとおりにし、カカシと入れ違いにシャワーを浴び終えたテンゾウは、テキパキつまみの用意をしていく。
「お前器用だね。」
カカシも手伝いながら、テンゾウの手際の良さに感心した。
用意が出来て湯煎で温めた地酒を手に2人で向き合う。
「・・・・・。」
「・・・・・。」
「すいません。何か微妙な空気になっちゃいましたね。」
「どうみてもテンゾウの方が泣かしたんだ。」
さっきの出来事に触れないことには、かえって不自然な空気のため、カカシはストレートに話を向けた。
「まあ、結果的に・・・。」
「可愛い子だったのに。」
「可愛かったです。」
「酷い男だね。」
「酷いんですけど、今じゃなくて、付き合ったことが申し訳なかったって思ってます。
「え?」
「可愛いし、いい子だとも思ったんですけど、僕、彼女に恋してなかった。」
カカシは黙って聞いている。
「紹介だったし、そういう気持ちは後から、ついてくるのかなと思ってたんですけど、
いや、紹介でも会ってる内に好きになってくる事ってあるんでしょうけど、彼女はちゃんと好きになってくれたのに、
僕はそうじゃなかったんです。それなのにずるずると・・。本当に、悪かったって思ってます。」
そう言って、テンゾウはカカシの顔を見つめた。
「そう・・・。ねえ、このお酒ほんとに美味しい。口当たりが良くて。」
カカシがそのまま話を変えた。
「ほんと、うまいですね。」
テンゾウもそれにならう。
杯がすすみ、酒に弱いわけではない、カカシの白い肌もアルコールで薄くピンクに染まりだし、
テンゾウはほんの少し、カカシを誘った事を後悔した。
その少し色づいた頬に触れたくなる。
癖なのだろう、カカシは時々髪をかき上げる。
その銀髪に触れたくなる。
見つめていたら、カカシと目が合った。
「何?」
どぎまぎする。
「いえ、あ・あのそうだ、寝るときは先輩がベッド使って下さい。僕はソファで寝るんで。」
「うん、でも俺やっぱり帰る。」
「え、でも外寒いですよ。」
「でも、ここからだとそんなに遠くないし、屋根伝っていけば。俺、忍者だし。」
「いや、そんなこと知ってますけど。」
カカシは本当に帰り支度をして窓を開ける。
一気に寒風が吹き込んで、カカシの顔が一瞬こわばった。
さすような冬の空気が張り詰めている。
「今日はありがとう。美味しかった、ごちそうさま。テンゾウ、服借りとく。」
トレーナーの上にマントを羽織い、暗部服を手に持って、カカシが窓から外へ出た。
テンゾウが窓から見送っていると、凍っていたのだろう、カカシが三つ目の屋根で滑った。
さすがに体勢を立て直して、こけたりはしなかったが、テンゾウ思わず笑ってつぶやく。
「忍者なんでしょ・・・。」
一緒の時を過ごすと、カカシの色々な面が見えてくる。
任務中の凄みは消え、むしろ今のように意外な事をしたりする。
この頃やっと見せるようになった、素の笑顔は本当に可愛い。
年上の男に使う表現としては適切でないのだろうが、それしか思い浮かばない。
ー今は何故、急に帰ってしまったのだろうー
カカシの事はまだまだ判らない。
冬の高い空の上で月が輝いていた。