偵察だけだった日帰り任務の帰り、暗部待機所へテンゾウとカカシが寄った。
「カカシ、もう上がり?一緒に飲みに行かないか?」
年はカカシより上だが、暗部配属がほぼ同時期の何人かが、集まっていてカカシを誘った。
「悪い。今日はちょっと、また誘って。」
「相変わらず付き合い悪いな。」
カカシを誘う者は多かったが、本人はよく断っていた。
もちろん、全て断っているわけではなく、時々は皆と一緒に行く事もあったが、
どちらかというと、正規部隊の友人の方が親しい様だった。
テンゾウは一度食堂でカカシと、正規部隊の上忍数人を見かけたことがあり、
その時はテンゾウもヌカタと来ていたので、会釈しただけだったが、
後日、アカデミーで入学が一緒だったメンバーだとカカシが言っていた。
『実は、俺、1年で卒業しちゃったんだけどね。卒業時期がバラバラだから、
正規部隊でも一緒のチームになった事もないんだけど。
あの中のガイってのが勝手に俺をライバル視してて、時々修行というか、勝負につき合わされてる。』
あまり自分の事を話さなかったカカシが、それでも最近は少しは話すようになっていた。
待機所から出ると、テンゾウはカカシに尋ねた。
「急ぎの用事なんですか?」
「用事はない。でも今日寒いだろ。飲みに行くと、帰りが嫌なの、寒くて。飲んでも家着いたら手足かじかんでるから。」
「循環が悪いのは食生活のせいですよ。もっと食べなきゃ。」
「げっ、またその話?お前は俺の母親か。」
「忠実な後輩ですけどね。よったら、僕んち来ませんか?ヌカタから、地酒貰ったんですよ。つまみ作りますよ。」
「地酒ってお前もヌカタも未成年じゃないの。」
「暗部に未成年もなんもないでしょ。」
「でもお前んちからの帰り、やっぱり寒いじゃない。」
「泊まってもらっていいですよ。」
うーんと考え込むカカシ。
「地酒・・・。かなり美味しいらしいですよ。僕もまだ飲んでませんけど。熱燗がいいですよねえ。」
「・・・・行く。」
テンゾウの部屋の前まで来ると、一人の女がドアの前に立っていた。
「あやめ・・。どうした?」
女がテンゾウの側までやってきた。
「テンゾウ!ヌカタに日帰り任務って聞いたから、待ってたの!私、やっぱり諦められない。どうしても駄目なの?もう一度考え直して・・・。」
「あやめ・・・。ごめん。でも、それは無理だよ。」
あやめと呼ばれた女が、両手で顔を覆って泣き出した。
泣く女の前で、テンゾウとカカシは無言で立ち尽くす。
しばらくして、あやめが顔を上げる。
「テンゾウ・・・。本当に無理なの?」
「うん・・・。」
「・・・わかった。ごめん家まで来ちゃって。帰るね・・。」
そう言って、泣きながらあやめは駆け出した。
あやめの姿が見えなくなり、テンゾウはカカシに謝った。
「すいません。なんか変なとこ見せちゃって。」
「俺はいいけど・・・。彼女いいの?泣いてたよ。」
「はい。仕方ないんです・・・。すいません、とにかく家に上がってください。」
テンゾウに促され、カカシは部屋に入った。