国境警備待機所の部屋は、チームごとの2人部屋になっていた。部屋といっても、
狭い簡易ベッドが二つと荷物置きも兼ねた机が二つあるだけの狭い部屋。
「戦闘がなくて落ち着いてるのに、イライラするなんて、暗部はどこか間違ってるよなあ。」
カカシがテンゾウに話しかけた。
「ハセさん達の事ですか?あの方達は元々の性格でしょ。」
「うん、それもあるだろうけど、コクブやシギ達もみんなギスギスしてるもん。」
「まあ、娯楽もなんもないところですからねえ。」
「このゆったりした時間を楽しめばいいのに。昼寝するとか、本読むとか。」
「先輩の楽しみを理解する暗部は少ないでしょうねえ。」
「テンゾウも退屈?」
カカシが尋ねる。
「僕は先輩と一緒なんで、退屈する暇がないです。
今だって、髪の毛拭かされてるし。はい、もういいですよ。」
テンゾウはタオルでシャワー後のカカシの髪を拭いていた。
「テンゾウが自分から拭いてくれたんでしょ。」
「先輩がちゃんと拭かないで、その辺に雫たらしてるからじゃないですか。」
「テンゾウ、やっぱ世話焼きタイプだよね。」
「前にも言いましたが違います。先輩が世話焼かせるんです。」
「え、俺別に何もしてないよ。」
「・・・・・何もしないから僕がすることになるんでしょう。・・・いや、もういいです。」
実際、テンゾウには退屈する余裕などなかった。部屋まで一緒で、睡眠も含めほぼ24時間カカシとともに過ごす。
忍者として、感情のコントロールは身についている。
カカシの側にいて、守りたいと思ったその決意は変わらない。
けれど、今の状況は近すぎて、時に辛くなる。想いの全てを打ち明け、抱きしめたくなる。
毎日が感情抑制の訓練のようだ。
きっと回り中、敵に囲まれている状況の方が、冷静でいられる。
特に今はチームがごたごたしているが、テンゾウにもこれといった方法はなく、
悩むカカシを見るのが余計に辛かった。
国境警備に就いて、1週間目の夜だった。
ミトとカタシは休暇中で里に戻っていた。
コクブとシギはその時間、見張り任務中で、外にいた。
テンゾウとカカシは、コクブ達と交代に、夜中の12時から、見張り任務に就く事になっていたので、
夕食後、早々にシャワーを浴び、仮眠をとるところだった。
「俺、お茶飲んでから寝る。」
そう言ってカカシはリビングに向かった。
「じゃ、僕も。」
テンゾウも後について行く。
リビングでは、4人組が相変わらずソファを占領していた。
何かを小声で喋っては、クスクス笑ってたハセ達にカカシが呼び止められた。
「隊長、今から寝るんですか?」
年下とはいえ、隊長であるカカシに一応は敬語を使っている。
「うん、真夜中からの任務だから、仮眠とるよ。」
「やっぱり、一発抜いてから、寝るんすか?」
そう、ハセが言うと、他の3人は大笑いする。
「え?」
「いえね、こんな退屈な所に閉じ込められてたら、自分を慰めるくらいしか楽しみがないって事ですよ。」
また、大笑いする4人。
「隊長、こんな何も楽しみない時、気の利いたクノ一がいれば、自分をおかずに提供する場合もあるってね。」
「まあ、本番とはいかなくても、手やら、口やらで、男達の任務遂行の邪魔になる、
イライラを上手く解消してくれるって話あるでしょ?隊長はしてもらった経験ある?」
「ないよ。」
カカシは、努めて冷静に答えた。
男同士の冗談というより、明らかにカカシを困らせ、楽しんでる様子だった。
隣ですでに不愉快さを隠さないテンゾウに、目で落ち着けと、カカシは合図を送る。
「隊長なら、クノ一要らないか、鏡見て出来るよな。その顔は充分おかずになるでしょ。」
ムロウの言った意味がカカシは一瞬判らなかった。
「え・・?」
「俺たち、さっき言ってたんですよ。隊長の顔なら、頭で充分女に変換出来て、抜けるって。」
そこで4人は大爆笑した。
テンゾウが強い怒気を込めて、それでも冷静さは失わず言った。
「あんたら、なに言ってる?」
カカシも、挑発に乗らないよう、冷静さを保って、答える。
「俺、仮眠取るから。その手の冗談には、今は付き合えないよ。」
そう言って、リビングを抜けようとすると、4人が立ちふさがった。