書き物の間

5.凍える月(5)

 次の日、夕方になってテンゾウがカカシの部屋に昨日の偵察任務の報告書を持ってきた。
「先輩、昨日のトレーナーのまんまじゃないですか。」
「着替えるの面倒だったから。ちゃんと洗って返すよ。」
「それは、いいですけど。先輩、前から思ってたんですけど、起きてても本読んでること多いし、いつ修行してるんですか?」
「それなりにやってるよ、俺は短期集中型なの。長くしたら疲れちゃうし。」
「はあ、体力ないですもんね。」
「何、それ。何かトゲある、先輩に対して。」

「・・・昨日、何で帰ったんですか?外、寒かったでしょ。屋根も凍って、滑るくらい。」
カカシがハッと顔を上げた。
「お前、見てた?」
「ええ、さすが忍者だなあって、こけなかったから。ま・普通は初めから滑らないですけどね。あはは・・・イテッ。」
テンゾウはカカシに枕を投げつけられた。

「すいません。」
むすっとしたカカシにテンゾウは謝る。
「でも、僕も急に帰られて寂しかったんで・・・。」
そう言いながら、投げつけられた枕をカカシに返す。
「今日は外で飯食いましょ。先輩、朝、昼何食べました?」
「朝は食べてない。昼は・・・なんかパンとか、その辺あったもの。」
「どうせ、そんなことだろうと思いましたよ。鍋なんてどうですか?」


 テンゾウのペースに乗せられ、カカシも仕度をして外へ出る。
2月の風が吹きつけ寒さに思わず身体を縮めた。
「ほんと寒がりですね。」
「今日のお前は言う事がいちいち嫌味。」


 美味しい鍋をだす店の前で、カカシ達が入ろうとした時、入れ違いに中から数人が出てきた。
その中の1人とカカシがお互いに気づいて、立ち止まる。
「カカシ・・・。」
「トミヲ。」
「カカシ、久しぶりだな。」
「おい、トミヲ。行くぜ。」
「あ、ちょっと先行ってて。駒の店だろ。すぐ行く。」

 テンゾウは、シキリに聞いていた、自分と組む前のカカシのツーマンセルの相手ということがすぐに分かった。
カカシを好きになり、暗部を辞めた男。

 「今日は、婚約祝いを正規部隊の仲間が開いてくれてるんだ。
独身の思い出に男ばっかで。ヤエに聞いただろ。俺たちの事。」
「うん、トミヲ・・・。おめでとう。」
「お前に言われると何か複雑だけどな。あはは。」
カカシが困った顔をした。
「そんな顔すんなよ。冗談だよ。」

 トミヲは不意にテンゾウの方を見て、尋ねた。
「お前、今、カカシと組んでる奴?ま、言えないな、そうであっても。」
暗部はむやみと身分を明かすわけには行かない。
「カカシを頼むな。こいつは1人で無茶するから。」
肯定も否定もしないテンゾウに向かって、トミヲは言った。

 トミヲはカカシの頭を片手でぽんぽんと、まるで子供に対してのように軽く叩き、
その手を極自然にカカシの頬へ滑らし、すっと離した。その手を上に上げ、
「連れが待ってるから行くよ。カカシ元気でな。無茶はするなよ。」
そう行って歩いて行く。

 トミヲのカカシに対する深い想いが、彼の言葉やさりげない仕草で、 テンゾウには充分伝わった。


 テンゾウは思う。自分はトミヲさんとは違う方を選ぶと。
自分はカカシのそばで一緒に戦い、そして守りたいから、言わずに側にいる方を選ぶ。

戻る 続く