書き物の間

5.凍える月(1)

 犯罪者達に武器を提供していた闇の武器製造所を突き止め、
跡形もなく破壊する任務にテンゾウとカカシは向き合っていた。
8人編成部隊の分隊長として、カカシは的確に指示を出し、
諦め悪く自分達が作っていた起爆札などを仕掛けてくる敵を、分身でうまくかわし、
ほとんど芸術のような動きで、任務を遂行させた。

 回収班が到着するまでの間に、めいめい、近くの井戸で汚れた任務用手鈎を外し手を洗う。
「うひゃ冷たい!」
「2月だからなあ。」
そのうち回収班が到着した。カカシが分隊長として、締めの言葉を7人の編成メンバーに言う。
「我々の任務は終了、報告書は3日以内に提出、各自、里まで帰還。以上。」
テンゾウ以外の6人の中には、カカシとの任務が初だったものもおり、
皆、任務中から感嘆の眼差しでカカシを見ていた。

 締めの言葉後、6人が散るのを見届けると、カカシはテンゾウの側に歩み寄り、いきなり両手で、テンゾウの顔をはさんだ。
「冷て!、てか、いきなり何するんですか。先輩。」
「あはは、ごめーん。だって手冷たかったから。テンゾウの顔、温かそうだなって思って。」
「人の顔で暖、とらないで下さいよ。」
「井戸水って、ほとんど氷並みの冷たさだよね。俺、手足の循環悪いのか、人より冷たくなるんだ。」
そう言って、両手に自分でフーと息をかけた。


 カカシと出会って、5ヶ月が過ぎようとしていた。
この頃、テンゾウには気づいていた事があった。
カカシには天才忍者という評判があり、実際、今帰還した6人等も、その通り噂にたがわぬ人と思ったことだろう。
それには違いないのだが、プライベートでも会うようになると、意外な面が見えてくる。
 時々、真面目な顔をして、おかしなことを言ったり、話がずれたり、
はじめは、何かの意図があるのかと思ったりもしたが、要するにかなりの天然だった。

 自分では、気づいていないのだろうが、隠しきれない天然さが、ちょいちょい行動にも現れた。
そんな時、テンゾウはカカシの素の表情が見れて嬉しくなる。
任務中も含めて、結構な時間を一緒に過ごし、テンゾウは、カカシが少しずつ、素の表情を見せる事が多くなったと思う。


 小雪がちらつきだした。カカシは手をふわりと上にかざして、雪を受け止めながら言う。
「雪、降り出したねえ。」
カカシの銀の髪と、雪と同化するような白い両手に小雪が降る。

 テンゾウはカカシの手をとった。
「雪、集めたら、余計手が冷たくなりますよ。」
「そしたら、また、テンゾウのほっぺたで暖めて貰う。」
悪戯っぽく笑いながら言うカカシは、本当に可愛かった。
「じゃあ、どうぞ。」
そう言ってテンゾウは、カカシの両手を自分の頬に持っていき、その上から、テンゾウの手でカカシの手をおおった。
カカシは、ふと真面目な顔になり、テンゾウの顔を見つめていたが、そうっと手を引っ込めた。
「もう暖まった、ありがと。」

    −まただ・・・。近づきすぎると離れてしまう。−

 テンゾウは自分が嫌われているとは思えない。それでも踏み込みすぎると離れていく。

「テンゾウ。帰ろ。」
カカシが、また笑顔に戻って、先に進みだした。

戻る 続く