1ヵ月の国境警備の任務が終わった。久しぶりの里は、5月の新緑の季節へと移り変わっていた。
前半に、日頃から素行が悪いメンバーとのトラブルがあったが、
警備という本来の任務では、特に問題はなく終了した。
「テンゾウ、国境警備後はしばらく休暇が貰えるけど、明日忙しい?予定なかったら、一緒に晩飯食べない?」
テンゾウは少し驚く。カカシから誘われるなんて、今までなかった。
「いや、予定は全然大丈夫です。」
思わず、力強く返事してしまう。
「色々テンゾウには世話になったから、お礼におごるよ。」
「いや、そんな世話なんて・・・、あ、でもご飯は行きたいです。」
「うん、じゃ、俺からテンゾウ家に行く。夕方、そうだな5時ごろ。じゃあ、お疲れ様。」
カカシが帰っていくのをテンゾウは、しばらく見送った。
国境警備中の心労が報われたような気がして、思わず小さくガッツポーズをしてしまう。
翌日、カカシは時間よりやや遅れて現れたが、両手に買物を一杯抱えていた。
「先輩、これは・・・?」
「うん、テンゾウに作って貰おうと思って。俺買ってきた。重かったあ、結構、酒も買ったから。」
カカシは、ニコニコして返事する。
「お礼に奢るって言いませんでした?それって普通外食・・・。」
「うん、最初はそのつもりだったけど、テンゾウの料理食べたくなって、あ、材料費は俺もちだからね。」
笑顔のカカシ。テンゾウはもちろん逆らえない。
2人で、カカシの買ってきた食材で夕食を作る。味付けは、テンゾウが担当した。
カカシは楽しそうに、出来た物を盛り付けたりしている。
カカシのテンゾウへの態度は、ハセ達に心無い事を言われ、
傷ついた心を思わず吐露した時から、変わってきていた。
以前は近づきすぎると離れてしまうようなところがあったが、今はそんなことがなくなっている。
テンゾウの気持ちも揺れていた。カカシに自分の気持ちを伝えないでおくと決めたが、
その気持ちがやもすれば、崩れそうになる。
今みたいに、自分のそばでカカシが素直に楽しそうにしているのをみると、
カカシの気持ちを思わず確かめたくなる。自分の事をどう思っているのか・・・。
「テンゾウ?どうした?」
ぼやっとしていると、カカシに呼ばれた。
「いえ、なんでも。」
料理が出来て、2人で乾杯する。
「テンゾウの味付け、おいしいよね。俺ほんと好き。」
「え?好き?」
「うん。好きな味。」
「ああ、味付け。」
カカシの何気ない言葉にもドキッとしてしまう自分が、テンゾウはおかしかった。
「テンゾウって優しいから、俺困るなあ。」
カカシがふいに話す。
「どうして、困るんですか?」
「うーん・・・決心が鈍るっていうか・・・。」
「決心って?」
「うん・・・まあね・・・。」
「何か良く分かりませんけど、優しいのが困るならスパルタにしましょうか?
朝は早く起きろー、飯はちゃんと食えー、昼寝しなーい、イチャパラ読まなーい、って。」
「それはもっと困るー!駄目駄目!今のままでいい。」
コツコツ。式が窓を叩いた。
2人同時に振り返って、さすがにうんざりする。
「昨日、1ヵ月の任務から明けたとこなのに・・・。」
カカシとテンゾウは、休暇を返上していたから、本当に1ヶ月間任務し続けていた。
テンゾウのところに式が来ていれば、ツーマンセルのカカシの所にも、
当然来ているはずで、更にカカシは憂鬱になる事があった。
「もし、小隊を組む必要があったら、またあいつ等と一緒になる。」
「そうなりますね。先輩。」
休暇中の者への呼び出しは、当然緊急なものである。
人手がないから、休暇中の者が呼ばれるわけで、現在休みなのは、
昨日までカカシ達と一緒だった、国境警備でのメンバー。
カカシを淫靡な目で見ていた奴らと再び一緒になる可能性があった。
「集合は明日でいいそうですが、長期任務の用意が必要との事です。」
テンゾウが式の伝言を読み上げる。
「判った。」
カカシの表情が、忍のそれへとなった。