自分の事は、ほとんど言わないカカシが、何故か話し始めた。
「噂なんて、でたらめだよ。俺と先生はそんな関係じゃなくて・・・。」
テンゾウは、黙って聞いている。
「強くて、優しくて、忍として尊敬してたし、父親亡くしてからは、親代わりになってくれて・・・・・。
俺も子供だったから、笑いかけてくれたり、頭撫でてくれたり、
そんなことがすごく嬉しかった。なのに、先生には何も返せないまま・・・。」
暗がりの中、カカシが左目を自分の左手で押さえた。
「テンゾウ、噂の中には写輪眼の事もあるのかな・・・?。」
「ええ、まあ・・・。」
「俺の写輪眼はね、あの写真でもう1人の男、うちはオビトのものだったんだよ。
俺が隊長だった任務で、敵の襲撃で、俺は左目を負傷して、
オビトはね、岩に挟まれて、助ける事が出来なかった・・・。
なのに、あいつは目を俺にって・・。写真の真ん中にいたリンが医療忍術で移したんだ。」
「そうだったんですか・・・。」
「リンにも辛い思いさせたまま、逝かせてしまった・・・。」
「先輩・・・。」
「テンゾウ・・・。父さんは、自殺だった。俺の存在は、生きる意欲の役には立たなかったんだねえ・・・・・。」
カカシが両腕を交差させて顔を覆った。
「みんなに何も出来ないまま、俺だけ取り残された・・・・・。」
飄々と冗談を言い、取り繕った笑顔の鎧をまとっていたカカシが、
琴線に触れる言葉に傷つき、鎧をまとう事も出来ず、
ふいにさらけ出した無防備すぎる心に、テンゾウは胸が苦しくなった。
ー 鋼のような強さを持ち、まるでその強さと引き換えのように、脆い精神を持つ人。 ー
テンゾウはベッドを降り、カカシのベッドの側に膝ついた。
自身は実験体として、無機質な機械に囲まれ、救出後は療養生活を送った。
暖かな思い出とは程遠い過去。
けれど、元々存在してた優しい笑顔
を次々に失う過程を経験し、尚且つ、
それを、自分の至らなさのせいだと戒めているカカシの心が切ない。
テンゾウは、カカシを抱きしめて、あふれるほどの愛しい想いを伝えたかった。
しかし、カカシに今、これ以上の混乱を与える事は出来ないと思う。
もどかしさがつのる。
「俺、今日なんでこんなこと喋ってるのかな・・・。自分でも、訳わからない・・・。
テンゾウ、ごめん。聞き流して・・・・・。」
そう言って、カカシは、毛布を顔まで引っ張りあげた。
テンゾウは暗闇に目が慣れ、カカシが、身体を小さく丸く縮めて、横になっているのがわかる。
いつも、こうやって1人で、孤独と、戒めの心と戦ってきたのだろうか。
何を言っても、言葉は陳腐なものになる気がする。
テンゾウは毛布から出ているカカシの柔らかい銀の髪を、親が子供にするように優しく梳いた。
カカシはされるがまま、動かない。
しばらくしてから、テンゾウはカカシに声をかけた。
「時間来たら、僕が起こしますから、少しでも眠って下さい。お休みなさい。」
「・・・ありがと。お休み・・・。」
無防備な心に触れた今、その心ごと守りたいと思いながら、
テンゾウはカカシの寝息が聞こえるまで、暗闇の中見守った。