テンゾウは数日前、宿でカカシに会いたかったと抱きつかれた時から、
カカシに近づきすぎないよう気をつけていた。これ以上、カカシに触れると、
隠していた言葉が、想いが、こぼれてしまう。
しかし、もうこれ以上、気持ちを押さえ込むことは出来ないと悟る。
自分の中の冷酷さや、里への正直な感情をぶつけても、
蔑むことなく、まっすぐに見つめてくるカカシの視線、
木々の間からさしこむ光を、その美しい容姿にまるでベールのようにまとい、
カカシが目の前に立っている。
その存在は、自分の心を無機質な暗い実験室から、開放していく。
森の中は静寂で、テンゾウがカカシに近づく時に踏みしめた枯れ木の音が、大きく聞こえる。
テンゾウはカカシに近づき、両腕を首筋と背中にまわし、抱きしめた。
カカシはされるがままになっている。
「先輩・・・。初めて会ったときから好きでした。もうずっと、ずっと・・・、好きです。」
テンゾウはカカシを抱きしめながら、押さえきれぬ想いを伝える。
飾る事も出来ず、ただ溢れる想いをそのまま口にした。
「好きです。先輩、好きです。」
「うん・・・。」
カカシは抱きしめられながら、頷く。テンゾウの気持ちは、
本当は随分前から、知っていたような気がする。
ただ、自分もテンゾウを好きだと気づいた時には、確かめる事が怖くなっていた。
特別に大切な人はもういらないと思っていた。失う事が怖くて・・・。
それなのに、日ごと大きくなるテンゾウの存在。
そして、存在を失う事だけが、別れではない事にも気づく。
テンゾウの優しさは、後輩としての親愛だけなのではないか。
確かめるのが怖くて、結局自分からは何も言えなかった。
今、テンゾウに好きだと言われ抱きしめられている。
満ち足りた、幸せな気分でカカシもテンゾウの背中に右手をまわす。
左手は添え木で固定し、動かせないことが本当に煩わしかった。
両手で思い切り、テンゾウに抱きつきたいと心から思う。
自分も好きだとテンゾウに伝えようと、カカシが顔を少し上げたら、
テンゾウが首に回していた手を、カカシの頬に添えた。
「すいません、先輩。後で幾らでも、気の済むまで殴ってもらっていいですから。」
急に何の事を言ってるのだろうと、カカシが一瞬考えるすきに、そのまま唇を奪われた。
唇を奪われるとカカシは抵抗することなく、目を閉じる。
すぐに、テンゾウの舌がカカシの舌を捉えた。
何度も何度もカカシの舌はテンゾウの舌に絡めととられ、
歯肉をなぞられ、上に下にとテンゾウはカカシの口内をくまなく愛撫する。
そして再び、カカシの舌を捉える。今までの想いを詰め込むかのように、
テンゾウはカカシの唇を奪い続けた。
体力がまだ完全でないカカシの息が苦しくなる頃、ようやく唇が開放される。
カカシは少し呼吸を乱しながら、テンゾウの首にもたれかかった。
「すいません・・・。」
テンゾウが再びカカシを抱きしめながら謝る。
「先輩が弱ってる時にこんな・・・。あの、ほんとに殴ってもらっていいです。」
テンゾウに抱きしめられ、身動きできないカカシはちょっと笑った。
「そう言われても・・・、この体勢じゃ殴れないよ。」
「すいません・・・。でも・・・、自分からはもう離せない。」
テンゾウに離せないと言われ、カカシはかっと胸が熱くなった。
こんなにも深くテンゾウに愛されてるという思いが、全身を駆け巡る。
カカシは抱きしめられているテンゾウの腕から抜け、
殴るのではなく、軽く唇に触れるだけのキスをテンゾウに返した。
そしてふっと向きをかえ、そのまま木の葉の里へと続く道を歩き出す。
テンゾウは、カカシからのキスという一瞬の出来事に、すぐには反応出来ずにいた。
けれど、一呼吸後、今確かに確実に、カカシからキスを返されたのだと実感する。
この想いがカカシに伝わり、それを受け止めてもらえたのだ。
自分はどれ程、カカシを愛しているのか。言葉では表現出来ない程の想いが身体中に染み渡る。
森の中は変わらず静寂で、前を行くカカシの足音が聞こえるのみ。
樹木の間からさしこむ木洩れ日が、ところ所、光の柱を作っている。
テンゾウは先に歩き始めたカカシに追いつき、その右手をとる。
2人は手をつなぎ、木の葉の里へと歩き出した。