森を抜けてしまうと里近くの街道に出る。 人通りの多い所へ出る前に
繋いでいる手を離さなくてはならない。カカシは手を離す時、どうも離しがたく、
そんな自分がまるで子供のようで、何だかおかしくなって、笑った。
「どうしたんですか?」
笑ったカカシにテンゾウが尋ねる。
「なんか、俺、子供みたいだなあって思って。」
「はあ。」
任務外では、大抵子供っぽいですけど、とテンゾウは内心思ったが、口には出さないでおく。
「何で、そう思ったんですか?」
「手、離したくないから。」
その言葉にテンゾウの胸の奥が熱くなる。
すでに森は抜け、里近くの賑やかな街道に近づいていたが、
今、その場でカカシを抱きしめたい衝動に駆られた。
一度心を開いてしまえば、素直になりすぎるカカシが愛しい。
一日中だって抱きしめていたい気持ちを抑えて、
怪我をして、体調も万全でないカカシの治療の為、まっすぐ木の葉へと向かう。
ようやく、木の葉の里の入り口に差し掛かる頃、カカシが遠慮がちにテンゾウに言った。
「テンゾウ・・・。あの、あいつ等の事だけど・・・・・。」
「わかってますよ・・・。制裁はもう、考えてませんから。」
「うん・・・。」
正直、カカシがハセ達を許す心は理解できない。
襲われ、涙にくれるカカシの姿は、当分自分の頭から離れる事はないだろう。
ただ、制裁をカカシが嫌がるのなら、しないでおく。
暗部にいる限りテンゾウもカカシも、また会う事もあるだろうが、
本来は2度と顔も見たくない相手に、わざわざ出向く必要もないだろうと、
テンゾウも自分を納得させた。
里に戻り、カカシはそのまま、入院する事になった。
骨折の方は、テンゾウの固定の仕方が良く、手術はしないでそのままギブス固定する事になったが、
ただ、チャクラコントロールが大幅に乱れており、この際という事で、
写輪眼の検査なども行われる事になり、しばらくは入院と医療忍に言い渡された。
ふてくされて、カカシがベッドに寝ている。
「手術しないんだったら、すぐ帰れると思ったのに。」
「仕方ないですよ。しばらくゆっくりして下さい。」
そう言いながらも、テンゾウもやはり、少し残念に思う。
テンゾウは、ベッドサイドに腰かけ、カカシの頬に手を添える。
口付けされることを判って、カカシが諌めた。
「テンゾウ、ここ病院だか・・・。」
皆まで言う前に口を塞がれる。もとより、カカシも強く抵抗する気はない。
右手を伸ばし、テンゾウの首に巻きつく。左手が治ったら、何より先に、
テンゾウに両手で抱きつきたいなんて思いながら、
息つく暇も与えない激しいテンゾウのキスを、受け入れていた。
テンゾウはいくらカカシの口内を愛撫しても、ものたりない。
もっと近づきたい、もっと触れたい、もっと、もっとと思いながら、
カカシの病衣の裾に手を入れる。
口付けながらカカシの胸に手を這わし、その小さな突起を軽く摘まんだら、
カカシの身体がビクッと反応し、唇が離れた。
至近距離で目が合い、カカシは恥ずかしそうに横を向く。
テンゾウはカカシの胸に這わした手を離し、めくりあがった病衣を下げた。
「すいません・・・。」
テンゾウが小さく謝る。
謝らなくていいのにと思いながらも、カカシは恥かしくて毛布で顔を隠した。
毛布で顔を隠してしまったカカシを見つめながら、テンゾウは反省する。
焦がれ続けた愛しい人に、夢中になりすぎてしまう。
毛布をめくり、今度は唇でなくカカシの額に口付けして、
火影様のところへ、カカシの帰還を報告に行く事を伝え、テンゾウは病院を出た。
翌日からも、テンゾウは毎日カカシを見舞い、時に口付けを交わし、
カカシは日に日に元気を取り戻した。検査も滞りなく済み、近いうちに退院出来るという日、
テンゾウがカカシに、火の国をはじめ同盟を結ぶ各国を巡る火影の護衛で、
2週間ほど里を出ることを伝えた。
「2週間も?」
隠すことなくカカシが寂しそうな顔をする。
「ええ、元々、藤の国の任務以前から決まってた火影様の定例の予定で、
当然カカシ先輩は護衛メンバーの長として参加する事に決まってたらしいんですが、
今回負傷されたので、僕だけ参加となったらしいです。」
「長は誰が?」
「シキリさんになったそうです。」
「そう・・・、じゃあ安心だね。ツーマンセルが基本とはいえ、
俺は入院中だし・・・、仕方ないよね。テンゾウに単独任務入っても。」
必死に自分に言い聞かせるようなカカシの言葉が可愛い。
テンゾウは、カカシを抱きしめた。
「すぐですよ、2週間なんて。退院しても、ちゃんとご飯食べて、自宅療養してて下さいね。」
「うん・・・。」
テンゾウが火影の護衛で里を出発したその日、カカシは病室の窓から空を見ていた。
テンゾウが帰ってくる頃には、ギブスも外れてる。
その時こそ、両手で思い切りテンゾウに抱きつこう。
いつもテンゾウがカカシを抱きしめてくれるように、
そう思いながら、空の彼方を見つめていた。
その時、カカシの病室の入り口に、鷲の暗部面をかぶった男が立っていた。