病室の窓から、テンゾウの事を想いながら空を見上げていたカカシが、
人の気配に気づき、入り口を振り返った。同時にドアをノックする音が聞こえる。
「はい。」
条件反射的に返事をしたが、その気配の人物が誰であったかも同時に気づき、
カカシは身体が無意識にこわばった。
ドアが開き、鷲の暗部面をかぶった男が入ってくる。
「具合はどうだ?。」
鷲の面を外しながら、暗部フル装備の男がカカシに話しかけた。
その男、ハセを見て、カカシの脳裏に、藤の国の出来事がフラッシュバックする。
腕を折られ、全裸にされて押さえつけられた記憶は、そうそう消えるものではなかった。
窓辺に立つカカシのすぐ側まで近づき、ハセは立ち止まる。
「腕は、まだ、ギブスしてるのか。」
左腕はギブスをしていても、退院も近いほどチャクラが回復しているカカシには、
ハセ1人、おそれる相手ではない。しかし、ハセが近づくほどに、声を聞くほどに、
襲われた時の記憶がはっきり蘇り、カカシは気分が悪くなる。
吐き気がして、思わず口元を押さえた。
「気分悪いのか?」
「・・・・・お前の顔見たら気分悪くなった。」
「酷い言われようだな。」
本当に眩暈がしてカカシはその場に座り込む。
「大丈夫か?」
ハセもしゃがみ、カカシの顔を覗き込む。
「お前よく大丈夫かなんて言えるな・・・。俺に何したのか忘れたのか。」
「覚えてるよ。お前たちが戻って来たら、テンゾウに仕返しされると覚悟してたくらいには。
でも来なかったな。お前が止めたんだろ。藤の国でも逃がしてくれたしな。」
「お前たちを逃がしたんじゃなくて、テンゾウに余計な事で人を傷つけてほしくなかっただけ。」
「顔色悪い。ベッドに戻れよ。」
ハセが手を貸そうとしたので、カカシは振り払い、自分でベッドに戻った。
カカシがベッドの上に座ったところでハセが話しかけた。
「お前はテンゾウと付き合ってるのか?」
予想外の質問をされて、カカシは意識がハセから質問の方に向く。
『付き合ってる?付き合ってるって言うのかな・・・?
好きだとは言われたし、俺も好きだけど。
正確には、これから付き合うっていうのかな・・・。』
カカシが思わず考え込んでいると、ハセが吹き出した。
「お前任務の時はあんなに鋭いのに、普段抜けてんな。
普通に否定すればいいだろ。黙り込んだら、認めてるのと一緒だぜ。」
さすがに、カカシも自分のうかつさに気づいた。ばつ悪く言い返す。
「お前とは何も喋りたくないだけだよ。」
ほんの少しの沈黙の後、ハセが口を開いた。
「カカシ、俺は今から、澤山岳の南稜地帯に行く。」
「あの、岩の国との小競り合いが続くところか・・・。」
その地域は、普段は単発に小競り合いが続く地域で、
他の任務を差し置いてまで、多勢の忍を向かわせるでもない場所で、
しかし岩の国の強硬派や、武器商人やら、抜け忍やらも出入りし、
忘れた頃に大きい戦闘が起こる。木の葉の忍にも時々犠牲者が出ていた。
その時々の戦闘規模により、かなり危険な任務ともなりうる場所。
「また、大きい戦闘が起きたのか?」
「まあ、そうらしい。それで里を出る前に、その、
お前に謝っておこうと思って。色々、悪かったな。」
国境警備の時から、さまざま、嫌な思いをさせられたハセから、
意外な謝罪の言葉を聞いて、カカシはその真意を測りかねた。
「お前が謝るとは思わなかったな・・・。」
「俺もだ、今まで人に謝った事なんてないから。」
「・・・・・すごい性格してんな・・・。」
ハセが笑いながら言った。
「俺に謝られるなんて、お前は貴重な存在だよ。」
「謝ってもらうぐらいには、酷い目にあってると思うけど、自分でも。」
「初めの頃は、お前は年下なのに才能あって、やっかんだりもしてた。
段々、そういう理由じゃなくなってきたけど。」
「え?」
ハセが面をかぶった。
「集合時間だから行く。テンゾウがいるだろうから、お前と会うのは無理だと思ってた。」
「あいつは今、火影の護衛で里を出てる。」
「そうか・・・。じゃ、俺は結構ついてるのかもな。」
ハセはドアのところまで進み、振り返る。
「カカシ。」
呼び止められてカカシは顔を上げたが、ハセは何も言わない。
面をかぶっているので、カカシにはその表情が判らなかった。
しばらくカカシの顔を見て、何も言わずハセは出て行った。
「何だろ・・・。」
今ひとつ、意味のわからないハセの言動が気になりつつも、
謝ったという事で、幾分カカシの気持ちが和らいだ。