書き物の間

3.月明かりの庭(2)

 ドアがノックされ、看護人がカカシに夕食を運んできた。
気がつくともう外は薄暗い。
夕食を受け取る為、身体を起こしたカカシがわずかに顔をしかめたのをテンゾウは見逃さなかった。

  −やっぱり相当痛むんだ。傷はかなり深かった。−
しかし、一瞬の後、顔を上げたカカシはすでに笑顔になっている。
「ありがとう。」
カカシに微笑まれて、若い女の看護人は赤面した。
「傷は大丈夫ですか?お食事のお手伝いしなくていいですか?」
「大丈夫だよ。利き手の右は怪我してないし。アリガとね。」
「判りました。用事があるときは呼んで下さい。」
そういって赤面したまま看護人は出て行く。

 テンゾウはますます苛立ちが強くなっていた。
「僕も帰ります。」
「ウン、お前も疲れてるのに悪かったね。」
カカシの身体は心配だったが、木の葉病院に入院してるのだから、テンゾウがこれ以上することはない。
「それじゃあ失礼します。」


  ーたまたま入ってきた看護人と自分と、カカシにとってはどっちも同じ程度の人間なのだ。−
本音を見せないカカシに対しての、自分の苛立ちが理不尽なものと言うことは、テンゾウは頭では理解していた。
たった1回任務を一緒にしただけで信頼など得られるわけがない。

  −なのに、何故こんなにも心がざわめくのかー
 テンゾウはその日、身体は疲れきっているのに、中々眠りにつけなかった。


 次の日、不在だった間の掃除や洗濯にテンゾウは没頭した。
いや、没頭しようとしていた。結局夕方近くには、木の葉病院へ足が向かっていた。


 テンゾウが病室に入るとカカシは眠っていたようだったが、すぐに気づいた。
頭の下には氷枕がある。白い肌は赤みがかっていた。
「熱あるんですか・」
「うん、少しね。」
今日のカカシは昨日ほど空元気を出していなかった。
ぐったりしている。
「昨日、怒ってたから、見舞いに来てくれるとは思わなかった。」
カカシにそう言われて、テンゾウは此処に来るまで引きずっていた苛立ちが吹き飛んだ。
熱があるせいなのだろうが、元気のない声。
その声を聞いただけで、昨日むすっとしたまま帰ってしまい悪かったと後悔し始める。
「怒ってないですよ。」 
「うん・・・。よかった。」

 テンゾウはカカシの額に手を伸ばした。
思ったよりも熱い。
「氷枕変えてもらいましょうか?」
「まだ冷たいからいい。」
額に当てた手にカカシのやわらかな銀髪が触れる。
無意識にカカシの髪をかきあげた。
カカシはされるがままになっている。
世界は二人だけのような錯覚に捉われる。

ふいにノックの後がして、テンゾウはカカシの額から手を離した。

戻る 続く