「テンゾウ・・・。」
カカシはソファから立ち上がった。
「先輩・・・・・。これはいったいどういう事ですか・・・?」
テンゾウが聞く。そしてカカシとハセの二人を見つめると同時に
疑問だけ投げかけ、返事を待たずに瞬身の術でいなくなってしまった。
「テンゾウ!」
カカシが呼びかけても、テンゾウは戻ってこない。
「テンゾウ・・・。」
そのまま立ちすくむ。カカシの白い肌から血の気がなくなって、蒼白となっていた。
「追いかけなくていいのか?」
ハセが口を開いた。
「だって・・・・・。判らない・・・。」
カカシが力なく答えた。
「里にいるんだから、居場所くらいすぐ判るだろう。お前は忍犬も使えるんだし。」
「居場所じゃない・・・。会って、どう話せばいいのか判らない。」
「それは、正直に言えばいいだろう。俺に頼まれたって。」
「澤山岳でお前と会った所から話すのか?嘘っぽいよ・・・。」
「じゃ、俺に無理矢理されたとか。」
「お前はそんな怪我してて、俺は元気なのに?それこそ無理があるだろ・・・。」
カカシがため息をついた。ハセもそれきり黙りこむ。
「ごめん・・・。」
カカシはハセに謝り、そのまま一人暗部待機所を出た。
ハセの言うとおり、里にいることが判ったのだから、テンゾウの居場所はすぐ調べられる。
第一、カカシはテンゾウの家の合鍵を持っているのだ。
しかし、カカシはテンゾウの家には行かず、自宅に戻った。
少し前汗を流したばかりだが、カカシはもう一度シャワーを浴びる。
鉛を身体に巻かれたような重い倦怠感に襲われていた。
目に見えぬ鉛を取り払いたくてシャワーを浴びたが、
少しも軽くはならなかった。
シャワー後、ベッドの上に膝を抱えて座る。
拭きが足らない髪の先から、雫が肩に垂れた。
カカシがハセにキスを許したのは、
それはテンゾウを本当に好きになったからだ。
自分の想いが一方通行だったら、
テンゾウに振り向いてもらえなかったら、
それはどんなに辛い事か、自分はその辛さをハセに与えている、
そう思うと断れなかった。テンゾウを好きにならなければ、
ハセの気持ちを思いやる事はなかったかも知れない。
幼少期に読み書き計算が出来て、1年でアカデミーを卒業し、
6歳で中忍、13歳で上忍になり、天才と言われて育った。
それなのに、テンゾウの誤解を解く言葉が判らない。
こんな想いは初めてで、どうしたらいいのか判らない。
細く長い手足を小さく丸めて、カカシはベッドに横になった。
やっぱりテンゾウの家に行こうか・・・テンゾウがいたとして、
話してわかってくれるだろうか・・・。
でも、もし、わかってもらえなかったら・・・。
何度も同じ事を考える。時間だけが過ぎ
夜がふけ真夜中になっても、カカシは眠る事も出来ず
ただテンゾウの事を考えていた。