カカシはパックンや他の忍犬と共に、澤山岳の南稜地帯を精力的に動き、
残っていた敵の残党をことごとくあぶりだした。ほぼ鎮圧し終え
基地となっていたテントに戻ってきたのは、ハセと別れてから二日後だった。
残党の戦力はたいしたことはなく、写輪眼を使う事もなかった。
カカシと共に派遣されてきた医療忍達が、自力では帰還できぬ重傷の者たちを
すでに里に連れて帰っていた。残念ながら助からなかった者達は、
もう一つのテントの中、無言で回収班の到着を待っている。
敵陣のど真ん中、遺体を回収できなかった者はタグだけだ。
カカシはテントに行き、静かに無言の者たちに手を合わせた。
結局、常駐部隊の隊長は殉死、一次増援のハセは重体で
医療忍と共に里に向かった為、カカシは臨時の南稜地帯の部隊長として、
最後の回収班到着まで、まだ数日をそこで過ごした。そうして、何日かの後、
全ての残務を終え木の葉に向かう。
任務を終え、帰還するだけの今は、どうしてもテンゾウが心に浮かぶ。
早く会いたい。自分でも不思議なほど、焦がれてる。
会いたい、会いたい。
人を好きになる気持ちの暖かさと、背中合わせの不安。
一度手にしてしまった暖かさを失う事が怖い。
今回の任務でも、カカシが増援に向かう前にすでに数人の犠牲者が出ていた。
忍という命の危うさは常に付きまとう。ただ、親や師や友とは違う不安が恋にはある。
人の気持ちは離れてしまう事もあるのだ。自分はこれからもずっと、
テンゾウに愛されているだろうか。取り留めなく、テンゾウを想う。
そうして、こんなにも人を好きになった自分を不思議に思う。
木の葉に帰還して、火影に報告を終えたカカシは、自分の部屋で汗を流す。
テンゾウはどうしてるだろう。任務中じゃなければいいのに。
はやる気持ちを抑えて、私服に着替えたカカシはテンゾウの家に向かった。
テンゾウは不在だった。やっぱり、任務かな・・・。さすがにがっかりする。
自分が入院中だった為、テンゾウがツーマンセルを外れて
火影の護衛に単独で行ってから、すれ違いになっている。
カカシは暗部待機所で、テンゾウの任務を調べることにした。
本来、暗部の仕事は極秘裏。しかし、そこは暗部でも名を馳せるカカシ。
カカシが望めば、木の葉で入らぬ情報はほとんどない。
カカシが暗部待機所の事務方の部屋の手前、
暗部達の休憩所になっている部屋に入ると、ガランと人のいない部屋で、
一人の男がソファに座っていた。思わず足を止める。
「ハセ・・・。」
座っていたのはハセだった。左足には包帯が巻かれ、
ソファには松葉杖も立てかけてあった。それでも顔色は良く、
瀕死の重傷だった時を見てるカカシには、信じられぬ回復ぶりだった。
「よう、カカシ。」
「お前、助かったのか・・・。」
「まあな、憎まれっ子世にはばかるって言うだろう。」
「その通りだな。」
「少しは否定しろよ。」
「自分で言ったんじゃないか。」
「多少は自覚してるってことさ。特にお前には色々酷い事したしな。」
カカシは、少しの間黙って、やがて口を開いた。
「生きてて良かったよ。」
「お前のおかげだ。」
「いや、お前を見つけたのは忍犬だ。」
「見つけてくれた事もそうだが・・・、お前の言葉が生きる気力になった。」
「・・・・・。」
何のことか、カカシはすぐに思い出した。しかし返答に困って、黙ってしまう。
「カカシ・・・。あの時、自分は死ぬと思ってたから、
バカみたいにぺらぺら正直に喋った。もう今更、取り繕ったりしない。
俺は、お前が好きだ。お前がテンゾウと付き合ってる事は知ってる。
それでも、生きて帰ってお前とキスしてやるって、
生きる励みになった。あの時のお前の言葉、忘れたか?」
「いや・・・・・覚えてるよ。」
「実行してもらうのはやっぱり無理か。」
「・・・・・。」
ハセにはむしろ敵より酷い目に合わされてきた。
国境警備では、部下への嫌がらせを止める代わりに慰みを強要され、
先生との間を侮辱され、藤の国では強姦されかけた。
全裸にされ、腕を折られ、あの屈辱感、絶望感は忘れられない。
でも、自分を好きだという気持ちは本当だろう。
死ぬかも知れぬその時に、嘘を言う理由がない。
自分がテンゾウの事を想う時、胸が痛くなるような気持ちになるように、
ハセもまた、自分を想っているのだろうか。人を好きになるのは、時に辛い。
自分のどこがいいのか、リンをはじめ今まで何人かの人に
想われてきた事は判っている。いずれも応えられなかったけれど。
みなに、辛い思いをさせてきたのだろう。
カカシはソファに座るハセに近づき横に座った。
生きる気力になったという、自分が言った言葉を実行する為に。
身体をハセの方にむけ、その唇に軽くキスする。
ふいにハセの右手がカカシの頭に回され、左手で頬を押さえられ、
同時に舌を絡めとられた。カカシは一瞬藤の国の事がフラッシュバックし、
嫌だという気持ちが沸き起こる。ハセを突き放したくなる。
でも、包帯姿や松葉杖を思い浮かべ、それは出来ないと耐えた。
ハセの舌がうごめく。早く終わってくれればいいのに・・・。
そう思いながらも、カカシはハセに唇を奪われたまま、耐えていた。
「えっ?どうして・・・・・?」
ふいに聞き覚えのある声が、入り口から聞こえた。
ハセがカカシの唇を解放し、二人して入り口の方を見る。
テンゾウが、呆然とした様子で立っていた。