火影の護衛から戻ってしばらく休みだったテンゾウにも、
程なく単発の任務が入った。あらましを火影から聞き、
潜入する土地の地形、その他の情報は暗部待機所にあるといわれ、
資料をとりに向かった。
澤山岳から負傷者や医療忍達も帰還し、臨時部隊長として現地に
カカシが残っているのは、聞いていた。そしてその地を平定し
最後まで残っていたカカシ本人も、すでに少し前に帰還したとは、
今しがたテンゾウに単独任務を与えた、火影本人から聞いた。
最近はすれ違いになっているとはいえ、本来ツーマンセルを組む相手だから、
火影もカカシの近況を教えてくれたのだろう。
帰還したと知り、会いたい気持ちは募ったが、
カカシは任務後で休憩しているのだろう。本来、体力のない人だから
ゆっくり休ませてあげなくては。今回の自分の任務は、
解決には時間をとりそうにはなかったし、カカシはしばらく休暇がもらえるはず。
自分の任務明けには、ゆっくりカカシと会えるとテンゾウは思う。
そう、今は目の前の任務に集中しなくては、テンゾウは気を引き締め
暗部待機所へ資料をとりにむかった。
事務部に入る為に通らなくてはならない暗部の休憩所の扉を開け、
テンゾウはハセとカカシが唇を合わせているのを見る。
頭が真っ白になるとは、こういうことを言うのだろうか。
「えっ?どうして・・・・・?」
考えるより先に言葉が出た。
無意識のように言葉を発した後、激しい怒りが湧き起こった。
カカシの横に居るハセに怒鳴り、殴りつけようと思い、
包帯を巻いた左足と松葉杖が目に入る。
カカシが押さえ込まれているわけではなかった。
「先輩・・・・・。これはいったいどういう事ですか・・・?」
テンゾウは一旦その場を離れる。冷静さを取り戻す為に。
そう、とにかく離れなければ、カカシにさえ、怒りの言葉を発しそうになった。
暗部待機所を瞬身で出て、テンゾウはそのまま屋根に上がった。
空を見上げ、深呼吸をする。
初任務で、何より人質の命を優先したカカシ。
国境警備では、部下の為にハセ達に手淫までしようとした。
うちは事件で一人生き残ったという、会ったことのない少年に心痛めていた。
藤の国では腕まで折られるような目にあったのに、制裁を加えないカカシ。
カカシは、いつも優しい。皆に優しい。
子供の時に救えなかった仲間を忘れられないカカシ。
写輪眼を持つ理由を聞いてから、いつも慰霊碑を訪れている事も知った。
仲間を失う事、傷つける事を怖れる、強くて弱い人。
里に対し、自分の生い立ちに対し、どこか冷めている自分。
彼と付き合うには、色々と覚悟がいるのだと改めて思う。
ハセとの事も、何か理由があったのだろう。
苛立ちが消えたわけではなかったが、暗部待機所に戻る。
任務の資料も取りに行かなくてはならない。
暗部休憩所に戻ると、ハセ一人ソファに座ったまま残っていた。
「よう、テンゾウ。」
テンゾウは、ハセと向き合う。
「藤の国以来だな。あの時、俺を殺しとけばよかったと、思ってるんじゃないのか?」
「殺す価値も無いと思ってるよ。」
「言ってくれるな。お前も分かってるだろうが、カカシはお前を裏切ったんじゃない。」
ハセは、澤山岳での出来事を話した。
「カカシが帰ってくるのを知って、ここに来たんだ。報告書にしろ、何しろ、
里に戻ったのならいずれ待機所に来るだろうと思ってさ。
何日でも待つつもりだったが、初日に会えた。
俺さ、ほんとはもう杖無しで歩けるんだ。これでも鍛えた暗部だからな。
ただ、杖をもってたほうがカカシが俺に同情するって思ってね。
あいつは、案の定約束を実行してくれた。」
テンゾウは、カカシの優しさに付け入るハセに怒りが湧くと同時に、
正直に自分に話す事にも驚く。
「あんた・・・。随分正直に話すんだな。」
「さっき、お前が瞬身でいなくなってしまった時のカカシの顔を見たら、
諦めるしかない。血の気が引いて全身蒼白になってた。
カカシは悪くない、優しいだけだ。
さんざん酷い事してきた俺がいうのも間抜けだが、あいつを泣かすなよ。」
自分を呼ぶカカシの声は聞こえていた。
ただ、あの時はその場から離れなければ、カカシにさえ、
事情も分からぬまま、怒りの言葉を言いそうになっていた。
ハセとの会話で、任務の出発時間がぎりぎりとなっていた。
任務はこなさなくてはならない。テンゾウは資料を受け取り、単独任務に出た。