テンゾウは、カカシが向かった澤山岳の南稜地帯について
いくつかの情報を得た。まずはじめに、常駐部隊の増援に向かったのが、
ハセを分隊長とする部隊だったことを知り、さらに負傷者多数の情報を得て、
カカシを分隊長とする医療忍者主体の二次増援が向かった事を知る。
カカシが出発してから後に入った最新の情報では、
主戦場はほぼ鎮圧出来、残党が小競り合いをしているという程度に
落ち着いてきているとの事だった。
とりあえずテンゾウは安心する。
カカシがチャクラ切れまで、戦う必要はなさそうだ。
残党どもの小競り合いの程度なら、その間をぬって
医療忍者を負傷者の所まで連れて行くぐらいのこと、
カカシほどの忍者にとって、問題ない。
わずかに、最初の増援部隊の分隊長がハセという事が、気にはなる。
しかし、チャクラ切れさえ起こさなければ大丈夫だろう。
カカシは紛れも無く強い。それなのに、いつもどこかテンゾウを不安にさせる。
仲間を失う事、傷つける事を極端に嫌がる。国境警備中に、
写輪眼を移植したいきさつを事を聞いた事がある。仲間を失い、師を失い、
そんな辛い思いは二度としたくないと、自分自身よりも里の仲間を大切にする。
里に戻ってからカカシのことばかり考えている自分に気づき、
テンゾウは、空を見上げる。自分が任務に出ている時、カカシも自分の事を考えただろうか。
取り留めなくカカシを思う自分に再び気づき、テンゾウは苦笑した。
澤山岳の南稜地帯に到着したカカシ隊は早速、負傷者多数の前線へ向かった。
前線のテントに着き、負傷者に治療を始める医療忍者達。
常駐部隊の隊長は一次の戦闘で殉職していた事を聞いていた為、
カカシは状況把握を、増援部隊の隊長であるハセに聞こうと捜した。
しかしいない。周りの者に聞くと、自ら前線の一番激しい場所で戦っていたが、
敵の最後の総攻撃のさなかに、行方がわからなくなったという。
ギリギリまでハセと一緒にいた者の話しによると、怪我をした部下の撤退を助ける為、
一人残り、撤退を援護していたという事だった。
撤退してきた部下達に話を聞いた比較的元気な者が捜しに行ったが、
すでにその場所にはいなかったと言う。
カカシは、最後にハセを見たと言うその場所を聞き、忍犬を口寄せする。
テントの警備は今回一緒に来たミトとカタシに任せ、パックンを先頭にそこへ向かった。
途中、数人の残党に出会ったが、カカシの敵ではなかった。
敵の死体が数人倒れており、おそらく激しい戦闘があったと思われるその場所には
確かにハセはいない。パックンはさらに先に進み、
カカシがついて行くと、大きな岩陰にもたれるハセを見つけた。
右側から近づくと、ハセがカカシに気づき振り向いた。
さして怪我をしている風でもなく、休んでいるだけかと思ったが、
カカシがハセの正面に行くと、左半身が血に染まっていた。
カカシはすぐパックンに、もといたテントにいる医療忍者を呼んで来てくれる様頼んだ。
そして、ハセの前に近づく。
「よう・・・カカシ。増援頼んだが・・・、お前が来るとはな。テンゾウも一緒か?」
「いや、出発の時、テンゾウはまだ火影の護衛から帰ってなかった。」
「そうか・・・せっかくお前が一人で現れたのに、死に掛かってるなんて、
俺はついてるのか、ついてないのか・・・。」
「今、忍犬に医療忍者を呼びに行かせた。」
「医療忍者より、回収班を呼んだほうがいいぜ。俺はもう無理だ・・・。」
ハセの怪我は、確かにかなり酷かった。上半身も、右側もほぼ無傷なのに、
左腹部から足にかけて出血が広がっている。皮膚はめくれ、一部、骨まで見えている。
忍が誰でも持ってる医療キッドなどではどうしようも無い。
カカシとて、医療忍を待つしかなかった。
「もう喋るな・・・。呼吸を整えろ。」
カカシは、どんどん顔色が悪くなるハセの言葉を止めた。
「カカシ・・・、もう無理だ・・・。今は痛みさえ感じない・・・。」
「ハセ。」
「カカシ・・・隊長って、大変だよな。部下の命守らなきゃならないし・・・。
やっかんで、意地悪して悪かった・・・。藤の国の事は・・・あれは・・・
お前を好きになってたけど・・・嫌われてるのは判ってたし・・・だったらと思って・・・。
一人で行く勇気もなくて・・・。ほんと悪かった・・・。」
「ハセ、喋るな。」
「カカシ・・・恥さらしついでに、最後の頼みを聞いてくれないか・・・。」
「何?」
「キスしてくれ・・・。」
「え・・・?」
「・・・やっぱダメか・・・変なこと言って悪かったな・・・・。」
ハセは大きく息を吐いた。
ハセが自分を好きだとは知らなかった。藤の国の事は、
遠征中の欲望のはけ口にされかけただけと思っていた。
ハセの傷は、助かる見込みは少ないとカカシも思う。
確かに最後の頼みになるかもしれない。でも、キスをしたら、呼吸を一時止めてしまう・・・。
腕まで折られて、ハセに腹立たしい気持ちが無いと言ったら嘘になる。
それでも、やっぱり生きてほしいと思う。部下を、里の仲間を守って怪我したのだから。
「キスしてもいい。でも今じゃない。お前が生きて里に戻ったら、その時するよ。」
「なんだ・・・。やっぱり駄目か・・・。俺は生きては戻れない・・・。」
その時、パックンが医療忍者を連れて戻ってきた。
カカシは手を挙げ、合図する。
「ここだ。」
立ち上がってハセに言った。
「お前は生きろ。俺は後始末をつけて来る。」
カカシはハセを医療忍者に任せ、パックンと共に、残党処理に向かった。